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情報公開法の見直しと残された課題
The review of Administrative Information Disclosure Law and the remained issues


三 宅  弘 


 
第1 はじめに−情報公開法の制定と見直しの経過

 1   1999年5月の行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下、情報公開法)が制定されたのに先立ち、「情報公開立法と知る権利(1)〜(3)」※1を発表したが 、そこでは、情報公開法の制定を射程に入れて、日本の情報公開立法における知る権利と、営業秘密やプライバシー情報の保護との衡量がどのようになされるべきかを、横浜地判平成元年5月23日と東京高判平成3年5月31日の裁判例※2をふまえて検討し、あわせて訴訟手続における非公開審理手続導入の可否を検討した。

 2  情報公開とプライバシー情報保護との衡量にあたっては、大阪府公文書公開等条例(以下、大阪府条例)9条1項の正当事由型の不開示情報か、あるいはプライバシー侵害に対する法的救済の三要件をもって保護されるべきプライバシー情報とあらかじめ定義したうえで、情報自由法(アメリカ合衆国法典第5編552条)(b)項(6)と同規定のものとするプライバシー型、あるいは、個人識別型の不開示情報によったとしてもその例外として、但書にある公開すべき「公益上の必要」を広く認め、または、「個人のプライバシーの明らかに不当な侵害に当たらない情報を除く」という但書規定を加えることが、情報公開とプライバシー保護のきめ細かい利益衡量のために必要ではないか。そのような問題提起をした。

 3  情報公開と営業秘密との衡量にあたっては、前掲横浜地判平成元年5月23日と東京高判平成3年5月31日の結論が正反対なのは、事実認定上の違いもさることながら、「明らかに不利益を与える」との要件が、「明らか」、「不利益」の2点において、不確定の概念によるからではないかと解し、むしろ、違法または不当な利益を除外する「正当な利益」との要件(大阪府条例8条1号)による方が、知る権利と営業秘密保護の実質的な利益衡量のためには適しているのではないか。そのような問題提起をした。

 4  さらに、訴訟手続における非公開審理手続導入の前提として、次の2条の立法提言をした。
 1つは、憲法82条の公開裁判原則の下での対象情報の特定を企図するものとして、たとえば、「情報開示請求権の存否が争われる訴訟において、当事者の申立てがあったときは、裁判官は、当該文書等を検証物又は書証として取調べるためその所持者に当該文書等の提示を命令し、公開の法廷においてその記載内容等を取調べ、情報非開示処分の趣旨が害されない限度で、当該文書等の様式、記載項目、記載内容及び非開示の具体的理由を調書に記載することができるものとするが、提示された文書等を当事者及びその代理人には閲読させないものとする(傍聴人にも知られないようにする)」との趣旨の規定を設けてはどうか。
 2つは、対象情報自体の公開法廷での取調べを嫌う行政機関側に対して課したヴォーン・インデックス類似の手続として、「情報開示請求権の存否が争われる訴訟において、当事者の申立てがあったときは、裁判官は、当該文書の取調べに代えて、文書の所持者に対し、情報非開示処分の趣旨が害されない限度で、当該文書等の様式、記載項目、記載内容及び非開示の具体的理由を具体的に記載した文書の提出を命じることができる」との規定を設けることはどうか。情報自由法の下での判例法上確立しているヴォーン・インデックス類似の手続の訴訟手続上の導入を前提とする限りにおいては非公開証拠調が可能であり、この方法ならば、憲法82条の公開裁判原則にも違反するものではない。そのような立法提言であった。

 5  その後、1994年12月に行政改革委員会が発足し、1995年3月から委員会の中に行政情報公開部会が設置され、部会における審議・検討のうえに1996年11月に「情報公開法要綱案」(以下、要綱案)と「情報公開法要綱案の考え方」(以下、考え方)がまとまり、同年12月に、行政改革委員会から内閣総理大臣に「情報公開法制の確立に関する意見」として具申された。野党では、要綱案を参考に、1997年6月に新進党の「行政情報の公開に関する法律案」と、民主党の「行政機関の公開等に関する法律案」が発表された。10月には共産党の「情報公開法案」が、11月には、新進党・民主党・太陽党の「行政情報の公開に関する法律案」が国会に提出された。いずれも法案1条に知る権利の保障を明記していた。与党では、自民党、社会党、さきがけの与党協議が1998年3月にまとまり、最終的に1998年3月28日に「行政機関の保有する情報の公開に関する法律案」(政府法案)が国会に提案され、1999年5月に情報公開法が制定された。情報公開は世界の潮流であるといわれたが、冷戦後のグローバル化した世界にあって、日本における、その制定は、1998年までに情報公開法を制定した30カ国に次ぐものとも解されている※3

 6  情報公開法の国会審議中、1998年7月の参議院選挙で自民党が大敗を喫し、情報公開法案修正の機運が高まり、同年9月に全野党共同の修正案がまとまり、99年2月に、衆議院で政府法案16条2項として、手数料を「できる限り利用しやすい額とする」こと、36条として開示不開示の処分取消訴訟は、原告住所地を管轄する全国8ヵ所の高等裁判所の所在地を管轄する地方裁判所においても提起できる旨の規定を設けること、情報公開法の公布後2年を目途として特殊法人の情報公開に関する法制上の措置を講ずること(附則2項)、法律の施行後4年後を目途として、施行状況の検討を加え、必要な措置を講ずること(附則3項)が全会派共同修正案としてまとまり、衆議院で可決された。その後、参議院では、与党は、附則3項で施行後4年を目途とする検討について、「情報公開訴訟の管轄の在り方」も加えた修正を行うことを提案し、野党もこれに同意し、参議院でのこの修正を受けて、1999年5月7日に修正後の情報公開案が衆議院で可決された。当時は、内閣提出法案が衆参両議院で修正されることは極めて珍しいことであった。

 7  情報公開法附則2項に基づいて設置されたのが、情報公開法の制度運営に関する検討会(以下、検討会)である。検討会は、2001年4月1日に施行された同法のこれまでの施行状況をふまえて、その制度運営のあり方について有識者による専門的な検討を行うことを目的として開催された。
 また、2002年10月に施行された独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律についても、その附則2条において「政府は、行政機関情報公開法附則2項の検討の状況をふまえ、この法律の施行の状況及び情報公開訴訟の管轄の在り方について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする」とされており、あわせて検討を行うこととされた。
 検討会は、2004年4月27日の初会合から2005年3月18日までの間に計12回開催され、関係団体や行政機関からのヒアリングを経て広範多岐にわたる論点から個別論点の整理・分析を行い、改善を要する事項の洗い出しと改善措置の検討等を行い、同3月29日に「情報公開法の制度運営に関する検討会報告」(以下、検討会報告)を公表した
※4

 8  2001年4月の情報公開法の施行と同時に、これとは別に、国立公文書館が、独立行政法人国立公文書館(以下、国立公文書館)として運営されることとなった。
 国立公文書館は、情報公開法2条2項の「政令で定める公文書館」であり、「歴史的若しくは文化的な資料又は学術研究用の資料として特別の管理がされている」行政文書を取扱対象としているところ、2000年10月施行の改正後の国立公文書館法15条1項に基づき、2001年3月30日に閣議決定された「歴史資料としての重要な公文書等の適切な保存のために必要な措置について」を受けて、歴史的公文書等の各省庁等から国立公文書館への的確な移管を促進した。しかしながら、情報公開法施行の2001年度は、各府省等からの移管申出数が少なかったことを契機として
※5、福田康夫内閣官房長官から、日本における公文書館制度は諸外国に比べて立ち遅れており拡充・充実する必要があるとの強い意を受けて、2003年4月に内閣府大臣官房長の研究会として「歴史資料として重要な公文書等の適切な保存・利用等のための研究会」(以下、研究会)が設置された。研究会は、同年7月に、直ちに対応すべき事項等を中心に「中間取りまとめ」を提出し、9月から10月にかけて、韓国・中国及び米国・カナダに分かれて各国の公文書館制度の実態を調査し、その調査結果を基に、「諸外国における公文書等の管理・保存・利用等にかかる実態調査報告書」を取りまとめ、公表した。この研究会の議論等を踏まえて、同年12月に内閣官房長官の懇談会に拡充・発展させた「公文書等の適切な管理、保存及び利用に関する懇談会」(以下、懇談会)が設置され、同懇談会は、2004年6月に報告書「公文書等の適切な管理、保存及び利用のための体制整備について−未来に残す歴史的文書・アーカイブズの充実に向けて」(以下、2004年懇談会報告)を取りまとめた。この報告書では、公文書等を適切に管理し、後世に残すべき価値のある歴史資料として重要な公文書等(以下、歴史公文書等)の体系的な保存を行い、これを広く国民の利用に供するための制度を整備するのが重要な課題であるとの認識の下に、現行の非現用文書の管理等のシステムの評価を踏まえて必要な取組みについての具体的な提言を行った。内閣府では、この提言を受けて、2005年6月に、公文書の移管基準の運用の細目を申し合わせた、「歴史資料として重要な公文書等の適切な保存のための必要な措置について(平成13年3月30日閣議決定)の実施について」(各府省庁官房長等申合せ)により、歴史公文書等の内閣総理大臣への移管手続を改正した。
 また、上記懇談会報告書に基づき、「半現用文書
※6」で歴史公文書等として国立公文書館に移管される蓋然性が高いものについては、あらかじめ府省庁等の境を越えて横断的に集中管理し、公文書等の散逸を防ぎ、保管環境を向上させ、早めに評価選別を行う「中間書庫」を構築するために、2005年5月に「公文書等の中間段階における集中管理の仕組みに関する研究会」を発足させた。また、懇談会報告書においては、電子媒体による公文書等(以下、電子公文書)の移管・保存・利用については、体制整備を急速に進める諸外国の例を参考としつつ技術的に詰める点も多いことから、各府省等の文書管理担当者との連携・協力を図りつつ、別途検討の場を設けて本格的な検討を行うことが行うことが望ましいとされたことを受けて、2005年6月に「電子媒体による公文書等の管理・移管・保存のあり方に関する研究会」を発足させた。懇談会は、この両研究会の専門的見地からの検討結果に、さらに総合的検討を加え、2006年6月、中間書庫システムと電子公文書の管理・移管・保存のあり方という2つの重要な課題についての具体的な対応方策等について、「中間段階における集中管理及び電子媒体による管理・移管・保存に関する報告書」を取りまとめ、公表した。

 9  本稿では、以上で述べた情報公開法の制定と見直しの経過をふまえて、情報公開法の見直しの到達点と残された課題について明らかにする。

第2 情報公開とプライバシー情報保護との衡量

 1  上記第1、2の問題提起に対し、情報公開法は、個人識別型の不開示情報を採用した。検討会報告書では、地方公共団体の情報公開条例では個人識別型とプライバシー型との「どちらを採るかによって必ずしも大きな違いは認められないようである」との認識に立ち、情報公開法では、「公にされ、又は公にすることが予定されている情報」(5条1号ただし書イ)を不開示情報の範囲から除くことによって、不開示情報の範囲が広がらないようにされていると評価している。現に、情報公開審査会答申平成13年156号「柔道整復師に対する行政処分命令書の一部開示決定に関する件」では、医師等の免許取消処分の公表を参考に、柔道整復師の業務停止処分にかかる情報は、情報公開法5条1号ただし書イの、慣行として公にすることが予定されている情報に該当するとしている。また、同答申平成14年5号「医薬品製造承認申請書及び医薬品副作用・感染症症例票の一部開示決定に関する件」では、副作用症例票について、情報公開法5条1号ただし書ロによる公益開示を認めた。

 2  前掲「情報公開法と知る権利(2)」では、前記東京高判が「本件平面図は、他の資料と総合することにより、容易に個人を識別することができる情報というべき」と判示した点について、その論理によれば、住民票等で容易に入手できる居住者の氏名に結合される情報はすべて「個人を識別され得る」情報ということになるが、それは個人識別型による不開示情報該当性を広げすぎることにならないか、という問題提起をした※7
この問題提起に対しては、情報公開審査会答申平成13年111号「国立病院、国立診療所、国立高度専門医療センターにおける医療事故の報告(平成12年度)の一部開示決定に関する件」が、情報公開法5条1号に規定する「他の情報」に、医療関係者、警察関係者、患者とその近親者、近隣住民が有している情報を含むべきではなく、一般人基準をとるべきとして、問題解決の理論を展開している。
すなわち、「「特定の個人を識別することができる」といえるか否かについては、諮問庁は、患者の近親者・地域住民等の関係者であれば独自に入手可能な情報もあり、その情報によって、これらの者の間においては、特定個人である患者が識別されることとなるとしている。しかし、本件医療事故の場合に「関係者」として想定されるのは、(1)事故が発生した病院における担当医師、看護婦等の医療関係者、(2)警察関係者、(3)患者及びその近親者、(4)近隣住民であり、(1)から(3)までの関係者は、特定年度の特定病院における医療事故の発生という情報から既に特定個人を識別することが可能であることから、法5条1号に規定する「他の情報と照合する」の「他の情報」にこれらの者の有する特別の情報を含むとして同号の個人に関する情報の識別性を判断することは、妥当ではない。
したがって、個人に関する情報の識別性の判断に当たっては、(1)から(3)までの特別の情報を有している関係者以外の者(以下「一般人」)からみて、通常入手し得る他の情報と照合することにより、個人を識別できるか否かを判断すべきである。また、(4)の近隣住民についても、当該個人に関する情報の性質や内容に応じて個別に判断する必要があるが、特別な事情により新たに公にされる情報に基づいて相当広範な地域住民が特定個人を識別し得ることとなる場合は格別、そうでない場合は、(1)から(3)までと同様に解すべきものである。
本件医療事故報告については、近隣住民についてもそのような特別な事情が見受けられず、(1)から(3)までと同様に解すべきである。」
この理論は、検討会報告書においても、「一般的な場合には、照合する「他の情報」は「一般人」が入手できる情報に限るとする、いわゆる一般人基準が採用されている状況が見られる」と指摘されている(10頁)。また、この情報公開審査会答申と同様に、情報公開条例の個人識別型の非公開事由について一般人基準説を採用した下級審判例もある
※8


 3  情報公開法5条1号ただし書ハが、「当該情報がその職務の遂行にかかる情報であるときは、当該情報のうち、当該公務員の職及び当該職務遂行の内容に係る部分」を不開示情報の範囲から除外している。しかし、検討会報告書が指摘するとおり、「行政運営上の懇談会等の議事録における発言者の氏名の取扱いについては、当該発言者が公務員か公務員以外の者かによって、開示・不開示の取扱が異なるなどの不合理な状況が見られる」という問題状況が指摘されている(11頁)。国家行政組織法8条に基づく合議制機関としての審議会は、中央省庁等改革基本法30条5号で、「会議又は議事録は、公開することを原則とし、運営の透明性を確保すること」と規定されている。しかし、国家行政組織法8条に基づかない、いわゆる行政運営上の懇談会、私的諮問機関などについては、その性質や審議内容を理由として、原則公開が貫かれないものもある。情報公開審査会答申平成14年453号ないし457号「平成14年1月11日に実施された法曹養成検討会の内容を記録した録音テープの不開示決定に関する件他4件」について、録音テープのうち顕名の議事録の公表の可否を協議した部分以外は、構成メンバー、会議の性格等により情報公開法5条1号イの慣行として公にされるべきものと認定されたが、録音テープのうち顕名の議事録の公表の可否を協議した部分が不開示とされたままである。東京地判平成15年12月12日季報情報公開13号(2004年6月)39頁では、この協議部分も同1号イに該当し慣行として公にされるべきものと判示された。しかし、東京高判平成16年12月15日判例集未登載では、同1号イには該当しないと判示され、結論が分かれたが、最決平成18年9月8日判例集未登載により上告棄却及び上告不受理決定がなされ、この東京高判の判断で確定した。司法制度改革推進本部の各検討会については、国会の附帯決議でリアルタイムの審議公開が求められていたが※1、「当該発言者が公務員以外の者かによって、開示・不開示の取扱いが異なるなどの不合理な状況」は、このような事例を指摘したものである。それゆえ、懇談会報告書では、改善措置として、「職務遂行に係る公務員の氏名については、特段の支障の生ずるおそれがない限り公開とする方向で統一した取扱方針を明らかにすること」と「行政運営上の懇談会等の発言者の氏名については、各会議の性格等に応じ、公務員の氏名に準じて原則公開する方向で統一すること」が求められた。これを受けて、平成17年8月3日情報公開に関する連絡会議申合せ「各行政機関における公務員の氏名の取扱いについて」に基づき、氏名を公にすることにより、情報公開法5条2号から6号までに掲げる不開示情報を公にすることとなるような場合、又は個人の権利利益を害することとなるような場合を除いて、各行政機関は、その所属する職員の職務遂行に係る情報に含まれる当該職員の氏名については、法5条1号ただし書イの「慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報」に該当するものとして、公にするものとされた※10

 4  個人情報の不開示情報に関して、情報公開法6条2項は、個人識別の部分を除くことにより、公にしても個人の権利利益が害されるおそれがないと認められるときは、当該部分を除いた部分は、同法5条1号の特定の個人を識別することができる情報に含まれないものとみなして、同法6条1項の規定を適用する旨規定している。情報公開法6条2項と同様の規定を有しないで同法6条1項と同様の規定のみを有する大阪府条例10条について、最判平成13年3月27日民集55巻2号530頁が、非公開事由該当のいわゆる独立的一体的情報をさらに細分化し、その一部を非公開とし、その余の部分を公開することまで義務付けているものと解することはできないと判示しているが、この判示部分は、強く批判されている※11
 そもそも、大阪府条例10条のような、日本の情報公開条例における部分公開義務規定は、アメリカの情報自由法に由来する。大阪府条例の制定当時のアメリカ情報自由法に関するミンク事件(Mink v. E.P.A., 464F.2d 742,746(1971). E.P.A.v.Mink,410 U.S.73(1973))と1974年改正による部分公開義務規定の新設が、情報公開条例に影響を与えた
※12。大阪府条例10条は、個人識別情報も他の情報と区別することなく取り扱う「記録の合理的に分離することができる部分」の公開義務規定として解釈され、およそ、「独立した一体的な情報」説をとる余地はなく※13、現に大阪府自身においても、独立一体説は採られていない※14
 法6条2項は、行政改革委員会の「情報公開法制の確立に関する意見」においては、個人情報の不開示情報の例外となる公開情報として、要綱案第六、(1)、ロ「氏名その他特定の個人が識別され得る情報の部分を除くことにより、開示しても、本号により保護される個人の利益が害されるおそれがないと認められることとなる部分の情報」として提案されていたが、法案化の過程で、立法技術上、法6条2項に位置づけられたにとどまるのであり、規定の位置が変わっても、要綱案に示された立法趣旨に基づいて解釈運用されるべきである
※15。また、立法に関与した藤原静雄教授によれば、「原則開示の基本的な枠組みにおいて貫かれるべき部分開示義務(法6条1項)の個人情報における確認規定にとどまる。情報公開法の立案者も、「個人識別情報以外の不開示情報については、不利益、支障の生ずるおそれの判断で不開示情報としての単位を画することができるので、単位の細分化が生じない、言い換えれば、不開示の範囲が広がりすぎるということはないこととなる。それゆえ、第6条2項のような部分開示の規定をおく必要がなかったのである」と説明されている※16
 この立法関係者の見解を適用した情報公開審査会答申平成14年123号「原子力発電の経済性試算における設定単価の根拠の一部開示決定に関する件」がある。この答申では、「不開示情報についても、重層的な捉え方が可能である場合には、不開示とする合理的な理由のない情報は開示するとする法の定める開示請求権制度の趣旨に照らし、開示することが適当でないと認められるひとまとまりをもって、その範囲を画することが適当である。特定の個人を識別することができる情報については、法6条2項により、個人識別性のある部分以外の部分について、公にしても当該個人の権利利益を害するおそれがないと認められるときは、当該部分を開示すべきとし、不開示情報を更に細分化して開示することとされているが、その他の不開示情報については、不開示情報を更に細分化して開示するという規定は設けられていない。これは、特定の個人を識別することができる情報については、その全体を一律に不開示とすると個人の権利利益の保護の必要性を越えて不開示の範囲が広くなりすぎるおそれがあること、及びその他の不開示情報にあっては、重層的な捉え方が可能な情報に対して一定の利益を保護するために開示することが適当でないと認められるひとまとまり、すなわち、法5条各号の不開示事由とされている「おそれ」等を生じさせる原因となる情報の範囲で捉えれば、不開示の範囲が不必要に広くなりすぎるおそれがないことによる。」と述べられている。
 また、名古屋高判平成14年12月5日判例集未登載は、「開示請求に係る行政文書のある一部分につき、(1)不開示情報の記載されている部分が容易に区分されて除かれた後の当該行政文書の一部であること、及び、(2)有意の情報が記録されていないと認められるものではないことの各要件を満たす場合であれば、当該一部分は、情報公開法6条1項に基づき開示しなければならないもの(すなわち部分開示情報)となるのであり、同条項の趣旨及び文理からみて、当該一部分が有意でないとは認められず、また、当該一部分が他の不開示情報の一部分であるとか、不開示情報との区分が困難等の事情もないにもかかわらず、当該一部分が一個の情報の一部であることを根拠に部分開示情報に当たらなくなるものとは解されない。」と判示している。
 さらに、最判平成15年11月11日判タ1143号229頁も、旅行命令票の全部非公開決定について、「本件各公文書は、甲野校長の校外出張に係る旅行命令及び当該旅行に係る旅費請求のために作成されたものであると解されるところ、本件各公文書の記載欄のうち「給料表の種類」欄及び、「級・号給」欄に記録されている情報は、旅行命令や旅費請求の内容を成すものではなく、旅費請求における旅費の算定の前提とするためのものであり、「氏名」欄に記載された同校長の氏名と一体として同校長の私事に関する情報そのものを成すものであるから、本件条例11条2号の非公開情報に当たるというべきであるが、本件各公文書に記録されたその余の情報は、いずれも同校長の私事に関する情報を含まないから、同号の非公開情報に当たらないものというべきである。また、本件各公文書中の上記非公開情報に係る部分は、それ以外の部分と容易に、かつ、公開を受けようとする趣旨を損なわない程度に分離することができるから、本件条例12条に基づき、上記非公開情報に係る部分を除いて本件各公文書を公開すべきものである。なお、「氏名」欄の記載は、上記非公開情報とその余の情報との共通の内容となっているが、この部分に私事に関する情報は含まれていないのであるから、この欄の記載は、公開すべきその余の情報に係る部分に含まれるものとして公開しなければならないと解される。」と判示している。判例タイムズ中の調査官の解説によれば、「一の公文書に複数の情報が記録されている場合、当該公文書中の一部の記載事項が、それぞれの情報の共通の内容となっている場合」(本件の旅行命令票中の「氏名」欄の記載事項であるA校長の氏名は、「給料表の種類」欄及び「級・号給」欄に記録されている情報、旅行命令に関する情報及び旅費請求に関する情報のすべての情報に共通する記載事項である)について、「共通の記載事項自体が非公開情報に当たらないものであるときは、当該記載事項は公開すべき情報に含まれるものとして公開すべきであるとしたものである。これが前記のような1個の情報を細分化して非公開事由に当たらない部分を公開すべきであることをいうものではない」と判示している。この解釈は、独立一体説は採用の余地がないとまでは述べていないが、少なくとも「共通の記載事項」は、独立一体の情報から除かれることを明らかにしたものであり、「独立一体」のあいまいさを浮かび上がらせたといえよう。
 この他、大阪府財政局財政部財政課に係る食糧費の支出関係文書の非公開決定についての最判平成15年11月11日民集57巻10号1387頁や、富山県職員の出勤簿のうちの職・氏名・採用年月日・退職年月日・出勤・出張等に関する情報の非公開決定についての最判平成15年11月21日民集57巻10号1600頁も、独立一体説に触れずに個人情報の部分公開を判示している。これらの判旨に照らすと、最高裁も前掲平成13年3月27日判決を実質的に変更しようとする方向が示されていることがうかがえる。
 これらの各判決は、いずれも独立一体説の適用の要件を厳格化もしくは実質的に変更するものとして注目され、独立一体説を示した前掲最判平成13年3月27日は、大阪府の知事交際費の現金出納簿についての事例判決として理解すべきものというべきではなかろうか。最高裁も、検討会報告が述べるとおり、情報公開法6条2項の部分開示に当たっては、「不開示情報の単位のとらえ方について、情報公開法の規定の趣旨にのっとって判断すべきである」(同報告書16頁)。

 5  懇談会報告書では、前記2のとおり、一般人基準を採用した場合、特定の個人を識別することができるとまでは言えないもののなお保護が必要な情報については、「特定の個人を識別することができないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの」(法5条1号本文後段)に当てはめて当該情報を保護する例が多くなりつつある、と摘示されている(10頁)。
 しかし、法5条1号本文後段は、要綱案第6、(1)、ロで「氏名その他特定の個人が識別され得る情報の部分を除くことにより、開示しても、本号により保護される個人の利益が害されるおそれがないと認められることとなる部分の情報」を絶対的開示情報とする旨の提言をふまえて、法制定時に、「特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの」を独立した不開示情報と規定することとしたものである。他方で、上記4のとおり、法6条2項の確認規定として、「特定の個人を識別することはできない情報であって、公にしても、個人の権利利益が害されるおそれがないと認められるもの」は、法5条1号本文前段の情報に含まれないものとみなすこととしたものである。法5条1号本文後段の趣旨は、行政改革委員会行政情報公開部会委員によっても、「それを公開いたしますと、それは、名前はわからないのだけれども著作者がいるわけですから、その著作者の人格権なり著作権を侵害することになるのではないかということを考えてこの条文ができているのではないか」と推察しているが、ある特殊な限定的なものとして機能するのであって、個人情報の保護が不必要に広がるということにはならないことが確認されていた
※17。しかし、懇談会報告書では、法5条1号本文後段に「当てはめて当該情報を保護する例が多くなりつつある」と指摘されている。この点は、人格権や著作権侵害を無用に拡大解釈しないように運用されるべき課題とされている。
 また、この分野では、そもそも、情報公開とプライバシー保護のきめ細かい衡量を指向する最判平成13年12月18日民集55巻7号1603頁の先例としての意義付けが確認されるべきところでもあろう。この最判は、兵庫県公文書の公開等に関する条例に基づくレセプトの本人開示を認めたものであるが、一般論として、「情報公開制度と個人情報保護制度は、前記のように異なる目的を有する別個の制度ではあるが、互いに相いれない性質のものではなく、むしろ、相互に補完し合って公の情報の開示を実現するための制度ということができるのである。とりわけ、本件において問題とされる個人に関する情報が情報公開制度において非公開とすべき情報とされるのは、個人情報保護制度が保護の対象とする個人の権利利益と同一の権利利益を保護するためであると解されるのであり、この点において、両者はいわば表裏の関係にあるということができ、本件のような情報公開制度は、限定列挙された非公開情報に該当する場合にのみ例外的に公開請求を拒否することが許されるものである。これらのことにかんがみれば、個人情報保護制度が採用されていない状況の下において、情報公開制度に基づいてされた自己の個人情報の開示請求については、そのような請求を許さない趣旨の規定が置かれている場合等は格別、当該個人の上記権利利益を害さないことが請求自体において明らかなときは、個人に関する情報であることを理由に請求を拒否することはできないと解するのが、条例の合理的な解釈というべきである。」と判示しているが、情報公開法の解釈においても、個人識別型の不開示情報の規定は、究極にはプライバシーの保護のためにあることに留意しておくべきであろう
※18

第3 情報公開と営業秘密等の保護との衡量

 1  前記第1、3の問題提起に対し、情報公開法は、「権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの」(法5条2号イ)を不開示情報とした。「権利」と「競争上の地位」も「正当な利益」の例示として規定されている。「利益」に関しては、民法の現代語化により、民法709条では、「権利」と同様に「法律上保護される利益」の要保護性が明定化された※19。同一文言でも、法律の趣旨によって異なる意義となることもあるが、情報公開法5条2号イの「利益」は、情報公開と営業秘密保護との衡量においては、民法709条での「法律上保護される利益」と同種の意義付けで解釈されてよいと考えられる。
 そのうえで、「正当な」という文言が、保護される「利益」から違法、不当な利益の保護をしないことについての基準となっている。情報公開審査会答申平成14年58号「警備業者に対する行政処分に関する報告の一部開示決定に関する件」においては、当該業者の営業停止処分については情報公開法5条2号イに該当しないと判断されている。また、同答申平成14年165号も、「米の残留農薬とカドミウム含有量に関する全国調査に係る文書の一般開示決定に関する件」において、市場に流通している商品の客観的数値を秘匿すべき合理的な理由はないとして、同2号イに該当しないとしている。同答申平成14年175号「日本債権信用銀行に関する検査報告書等の不開示決定に関する件」においては、破綻金融機関につき、承継金融機関の正当な利益を害さない情報を開示すべきとした。同答申平成14年279号「障害者雇用率未達成一覧等の一部開示決定に関する件」においては、障害者雇用率未達成企業の公表に2号イ該当性を認めなかった。
 情報公開と営業秘密の保護との衡量においては、上記各審査会答申を根拠付けるものとしても、大阪府水道部食糧費情報の開示についての最判平成6年2月8日民集48巻2号255頁の影響が極めて大きい。この最判は、大阪府条例(当時)の8条4号及び5号の行政運営情報の解釈においても重要な解釈基準を定立しているが、8条1号の法人情報の非公開事由については、「原審は、前記の事実関係の下において、本件文書には飲食店を経営する業者の営業上の秘密、ノウハウなど同業者との対抗関係上特に秘匿を要する情報が記録されているわけではなく、また、府水道部による利用の事実が公開されたとしても、特に右業者の社会的評価が低下するなどの不利益を被るとは認め難いので、本件文書の公開により当該業者の競争上の地位その他正当な利益を害するとは認められないとしてこれを否定しており、この原審の判断は、正当として是認することができる。」と判示している。この判示部分は、「正当な利益」を害するかの判断として、「営業上の秘密、ノウハウなど同業者との対抗関係上特に秘匿を要する情報」や「社会的評価が低下するなどの不利益」を例示しており、「正当な」という文言によって、保護される「利益」から違法、不当な利益を保護しないことについての基準として機能させているのである。この最判の基準は、9ヵ月後には、残留農薬が検出された健康茶の商品名と販売会社名の開示を認めた東京地判平成6年11月15日判時1510号27頁で採用されることとなった。そのうえでこの東京地判は、市場に流通した商品の品質・性状に関する客観的な情報についての開示基準として、次のように判示した。「商品の品質・性状に関する客観的な情報が公表されることにより、消費者において、ある事業者の商品の品質・性状と他の事業者の商品のそれとの比較が可能となり、その結果、ある事業者の商品の販売力や収益に不利益が生じることがあるとしても、それはもともと当該商品の品質・性状の格差に由来するものであるから、当該商品を流通に置いている事業者が甘受しなければならないというべきである。・・・したがって、商品の品質・性状に関する客観的な情報は、通常は、これが開示されるとしても、当該商品の本来の品質・性状の格差が明らかになるという以上に、事業者の有する競争上等の地位をことさらに害するような性質の情報ではないといわなければならない。」。
 また、大学の財務文書の一部公開決定についての差止訴訟、いわゆる逆情報公開訴訟においても、最判平成13年11月27日判時1771号67頁は、次のとおり、最判平成6年2月8日と同様の基準で収支計算書の大科目部分の開示を認めている。すなわち、「本件情報(帝京大学理工学部の施設整備費補助金の交付申請に際しての前年度収支計算書のうち資金収支計算書及び消費収支計算書における各決算欄の大科目部分並びに貸借対照表における昭和63年度末欄、同62年度末欄及び増減欄の各大科目部分)から得られる分析内容からは、上告人の競争上の地位を害するような上告人独自の経営上のノウハウ等を看取することは困難であり、本件情報の内容は、客観的にみて、上告人の学校運営等を阻害したり、その信用又は社会的評価を害するものということはできない。また、本件情報が経理に関する情報であることから、直ちに上告人が本件情報を管理することに正当な利益を有するということはできず、そのような利益を認めるに足りる特段の事情が存するともいえない。したがって、本件情報が本件条例(栃木県公文書の開示に関する条例)6条2号に該当するとはいえないのであって、これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。」。
 さらに、最判平成14年9月12日判時1804号21頁は、事業者の印鑑の取扱いについても、次のとおり、「正当な利益」を具体的に判断している。すなわち、「本県条例(奈良県情報公開条例)10条3号に該当するというためには、当該情報を開示することによって当該事業者の競争上又は事業運営上の地位、社会的信用その他正当な利益が損なわれると認められることを要するところ、元来は事業者が内部限りにおいて管理して開示すべき相手方を限定する利益を有する情報であっても、事業者がそのような管理をしていないと認められる場合には、これが開示されることにより正当な利益等が損なわれると認められることにはならないものというべきである。」「このような情報の管理の実態にかんがみれば、顧客が奈良県であるからこそ債権者が特別に口座番号等を開示したなど特段の事情がない限り、・・・開示しても債権者の正当な利益等が損なわれると認められ・・・ない。」「印影は、債権者の請求書に押なつされているものであり、通常は銀行取引に使用する印章を請求書に押なつすることはないと考えられるから、原審が〔悪用されるとするおそれがあるとする〕判断の前提としてこれを銀行印の印影であるとしていることには誤りがあるといわざるを得ない。」。
 東京地判平成12年11月29日判例集未登載は、ジョイントベンチャーによる公共建物の建築工事の積算見積書について、被告文京区側において、開示しても文京区条例の非公開事由に該当しないこととする原告の主張を認めて再度の開示決定をしたことを認定している。すなわち、「本件各全部公開決定通知書には、「平成11年3月17日・31日付で受理した行政情報の公開請求(文京シビックセンター建築工事の契約金額の内訳書の閲覧と写しの交付請求)に対して、東京都文京区行政情報の公開に関する条例第7条第1項の規定に基づき、次のとおり公開することに決定したので通知します。」と明記されており、これによれば、本件各全部公開決定は、原告の行った本件公開請求の応答としてされたものであることは明らかであり、かつ右の決定の内容からして、これと背反する被告が本件公開請求に対する応答として先に行った本件各非公開決定については、その全部を職権により取り消す趣旨を含むものと解することができるというべきである。」。この東京地判は、結論としては、「原告がその取消を求める本件各非公開決定を取り消したうえで、全部公開決定をしている上、すでに、本件各非公開決定の取消しを求める訴えの利益は消滅したものというべきである」旨判示しているが、審理経過において、最判平成6年2月8日が公共事業分野の積算見積書の開示にまで及んで極めて大きな影響を与えたことを示している。
 以上の判例の展開は、従前指摘したとおり
※20、「「営業秘密」(不正競争2条4項)が事業活動に有用な技術上また営業上の情報にかぎり営業秘密となるよう、有用性を要件としたと解されていることと同様に、「正当でない」利益は不開示とはしないこととして解釈される」傾向を示すものである。特定非営利活動法人気候ネットワークが処分庁中部経済産業局長に新日本製鐵株式会社名古屋製鐵所等の、エネルギーの使用の合理化に関する法律11条に基づく2003年度の定期報告書中の「燃料等の使用量および販売副生燃料等の量」の開示請求をし、処分庁が一部不開示処分をした事例では、名古屋地判平成18年10月5日判例集未登載は、この一部不開示部分には、情報公開法5条2号イの「権利、競争上の地位その他正当の利益を害するおそれ」について、「当該法人の正当な利益が害される蓋然性」が認められないと判示したが、この名古屋地判も、これまでの判決の傾向、「おそれ」の蓋然性を解釈上の要件とする情報公開法5条2号イの解釈を踏襲したものといえよう。
 この他、情報公開審査会答申平成15年617号は、人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報(法5条2号ただし書)に当たるとして、特定の血液製剤を納入した医療機関に関する情報を開示すべきとした。しかし、同2号ただし書の適用例は少なく、同ただし書で人の生命、健康等の保護と営業秘密等の保護を衡量するよりも、端的に「正当な」利益か否かで判断する方が容易であるとする傾向を示している。


 2  情報公開法は、「行政機関の要請を受けて、公にしないとの条件で任意に提供されたものであって、法人等又は個人における通例として公にしないこととされているものその他の当該条件と付することが当該情報の性質、当時の状況等に照らして合理的であると認められるもの」(法5条2号ロ)を設け、情報公開と営業秘密等の保護との衡量をはかるものとした。この規定が、情報自由法におけるクリティカル・マス対原子力規制委員会事件(コロンビア地区控訴裁判所判決)を参考にしていることは、既に論じたところである。そのうえで、「企業の犯した不祥事で届出義務のないものについて、「正当な利益」とはいえないものを、いわば「落ち穂拾い」的に、あえて非開示とするためだけに適用されることになるのではないだろうか」と問題提起した※21
 検討会報告書は、この点に関して、「この判断基準によると、諮問庁が情報公開法第5条第2号イおよびロの適用を主張する場合には、法人の「正当な利益を害するおそれ」(同号イ)の判断と「当時の状況等に照らして合理的である」(同号ロ)かの判断を重複又は連続して審査することとなる。不開示理由として同号イ及びロを同時に諮問庁が主張する事例は答申中に散見されるが、そのうち不開示が認められた事案においては、同号イの適用について優先して判断していると見られる場合が多い。」と指摘して、いわば「正当な利益」(同号イ)に該当しないものでも、特に非公開特約付任意提供情報(同号ロ)に該当する傾向を認めている。表現はともかく、同号ロが「落ち穂拾い」的に解釈適用されるとすると、やはり、同号ロが必要な規定かどうか、さらに検討に値すると考えられる。民主党の「行政機関の保有する情報の公開に関する法律等の一部を改正する法律案」
※22では、同号ロを削除する案が提案されているが、さらに検討すべき余地があろう。

 3  実際、情報公開審査会答申においては、法5条2号ロを適用する事例が少ないうえに、平成14年答申123号「原子力発電の経済性試算における設定単価の根拠」の一部不開示決定の件(審査会で一部取消)、平成14年答申191号「特定証券取引所の調査報告書」等の不開示決定の件(一部取消)、平成15年答申483号「茨木労働基準監督署に提出された再発防止対策書」の不開示決定の件(一部取消)、平成17年答申17〜25号「特定会社に係る財産及び収支に関する報告書等」の一部開示差止申立ての件(原処分維持)、平成17年答申160号「特定医薬品に係る医薬品等安全性情報報告書」の不開示決定の件(全部取消)等、法5条2号ロの適用を制限的に解釈するものもあり、保護すべき情報の不開示は、法5条2号イの解釈で足りるのではないか、十分に検討される必要があろう。

第4 引き続き検討すべき課題としての非公開審理手続

 1  検討会報告書は、「情報公開訴訟におけるインカメラ審理については、審査会の調査審議においてインカメラ審理が有効であると認められること等に照らし積極的に導入を検討すべきであるとの考え方」を認めつつも、「情報公開法に係る訴訟の状況等からその要否について現時点で判断することは困難であり、また、必ずしも法的問題についての議論が十分熟しているとは言えないことから、本検討会において結論を出すには至らなかった」。そのうえで、特に、「理論的実務的な今後の蓄積を踏まえつつ、引き続き検討する必要がある課題であると考える」と指摘された(報告書35頁)。

 2  この結論の前提として、検討会報告書によれば、情報公開審査会におけるインカメラ審理とヴォーン・インデックスの運用状況については、以下のとおり報告され、いずれも有効に機能していることが論証されている。すなわち、
 「いわゆるインカメラ審理については、平成13年度から15年度までの3年間にだされた1535件の答申のうち、対象文書を見分したとの記載があるのは941件であり、対象文書の不存在を理由とする不開示決定又は存否応答拒否による不開示決定が争われている場合が計495件あることを考慮すると、ほとんど実施されている。
 いわゆるヴォーン・インデックスの提出を受けたものは同じく31件であったが、この他にも、諮問庁が自主的に、あるいは審査会事務局の要請に応じて開示請求対象文書の内容を整理して提出している場合がある。」(報告書31頁)。
 訴訟手続におけるインカメラ審理とヴォーン・インデックスについては、これを認める条文は民事訴訟法、行政事件訴訟法及び情報公開法にもないから、認めるとすると裁判所の訴訟指揮権・釈明権に基づいて実施されることとなる。インカメラ審理は、下級審で実施された報告はあるが
※23、一般には、訴訟の被告行政機関側において、これを認める条文がないから実施に反対する傾向が一般的である。これは、行政機関側で秘扱いとするものを裁判所まで持ち運ぶことのわずらわしさがあることや、秘扱いとしているものが、裁判官によって見分されることで、その主張の根拠が薄弱であることを看破されることを避けたいということがあるように解せられる※24
 情報公開審査会では、開示不開示を決定するにあたり、最もその判定が困難なものは、最終的には内閣官房長官のもとで、審査会委員が現実に当該情報を見分して、その決定をするといわれているが、そのことからもインカメラ審理は、情報公開法の運用にあたり、極めて重要な手続であることが明らかである。それだけに、行政機関側は、政府での内部処理を超えて、その判断を裁判所にゆだねることには、相当の抵抗がある。
 検討会では、外務省接待費等の不開示処分取消訴訟の原告代理人から、訴訟手続上、迅速化のためにインカメラ審理が必要であることが報告された
※25。また、検討会委員の一部からも、訴訟手続におけるインカメラ審理の法制化が強く求められた※26。しかし、上記1のとおり、インカメラ審理については、「引き続き検討すべき課題」とされるにとどまったのである。

 3  第1の4のとおり、既に立法提言はなされている。その理論的根拠としても、佐藤幸治教授において、情報公開条例における判事室での検討(in camera review)も憲法82条に違反しないという立場がとられた※27。筆者も、東京都精神病院統計の情報非開示決定処分取消訴訟の和解手続をふまえて、「公の秩序又は善良の風俗を害する虞がある」場合を拡張解釈できうる範囲に限定し(その限りで公開裁判原則の枠が残る)、非公開審理を採らなければ政府情報の原則公開という「公の秩序」を害するおそれがある場合に限り、非公開審理手続が認められるものと考えたい」旨を提言した。しかも、インカメラ審理の否定的側面((1)非公開証拠調に立ち会わない原告側の反論・反証が可能か、(2)非公開証拠調を実施した第1審で原告側敗訴の際の控訴理由の主張が可能か、(3)非公開証拠調べに基づく事実認定により、裁判官は説得力ある判決が下せるか、(4)上級審裁判所は原告の非公開証拠調の調書を見るだけで原判決に対し充分な判断ができるか、(5)非公開証拠調べについて裁判所による厖大な記録の精査が訴訟経済上合理的か)を克服するものとして、ヴォーン・インデックス類似手続の導入が必要不可欠であることもあわせも提言した※28
 松井茂記教授も、つとに、情報公開法・公文書公開条例に基づく情報の公開を求める訴訟においては、理論的には憲法82条のもとで裁判を非公開とする可能性を認めていた
※29
 さらに、情報公開法制定後においても、長谷部恭男教授は、「憲法82条によって公開を要求される『対審』とは口頭弁論を指すと考えられており、・・・公文書についても裁判所のみが当該文書を閲読し、提出の可否を審査しうる制度を認定することは、必ずしも憲法の公開の要請に反するものではない」と論じた
※30。さらに同教授は、司法制度改革推進本部知的財産訴訟検討会第12回において、憲法82条の公序概念について、「『公序』の意味は、82条の趣旨目的に沿って定められる必要がある。82条1項が、判例通説の示すとおり、裁判の公正さと国民の裁判への信頼を確保するために公開原則を定めるものである以上、対審を公開することで、むしろ裁判の公正さと国民の裁判への信頼を損なう虞(高度の蓋然性)が認められる場合が、同条2項にいう「公の秩序」を害する虞がある場合にあたると考えるべきであろう。」としたうえで、人事訴訟については、「たとえば、人事訴訟において当事者若しくは法定代理人又は証人が、自己の私生活上の重大な秘密にかかる事柄について尋問を受ける場合、当該尋問が公開法廷で行われると、尋問に対して十分な陳述をすることができず、かつ、当該陳述を欠くことによって適切な裁判をすることができないことにより、適正な身分関係の形成や確認が行われないという高度の蓋然性がある場合には、裁判所は、裁判官の全員一致の決定で、対審を公開しないで行うことができると考えられる。」として人事訴訟法22条の合憲性を根拠付けている。さらに、「そのような高度の蓋然性が認められる場合に公開法廷での尋問を行うことは、国民の裁判への信頼を保つゆえんではないであろう。権威に基づかない法的推論と同様、事実に関する十分な証拠に基づかない裁判は正義(justice)の実現を損ない、かつ、裁判への国民の信頼をも損なうことになるからである。憲法学の言葉遣いでいえば、こうした場合には、対審の公開を停止すべき「やむにやまれぬ理由(真にやむを得ない理由)compelling reason」があることになる。以上のような考え方からすれば、「公の秩序」を害するおそれを、公共の安全を害するおそれのある場合および性風俗に関わる場合に狭く限定することにさしたる理由があるとは考えにくい。」とも指摘している。そのうえで、こうした考え方を営業秘密が問題となる訴訟にあてはめて、同様の要件による憲法82条の合憲性を導いている※31
 このような検討を受けて、不正競争防止法13条は、当事者尋問等の公開停止として、「不正競争による営業上の利益の侵害に係る訴訟における当事者等が、その侵害の有無についての判断の基礎となる事項であって当事者の保有する営業秘密に該当するものについて、当事者本人若しくは法定代理人又は証人として尋問を受ける場合においては、裁判所は、裁判官の全員一致により、その当事者が公開の法廷で当該事項について陳述をすることにより当該営業秘密に基づく当事者の事業活動に著しい支障を生ずることが明らかであることから当該事項について十分な陳述をすることができず、かつ、当該陳述を欠くことにより他の証拠のみによっては当該事項を判断の基礎とすべき不正競争による営業上の利益の侵害の有無についての適正な裁判をすることができないと認めるときは、決定で、当該事項の尋問を公開しないで行うことができる。」を規定した(1項)。この規定は、「憲法第82条の定める裁判の公開原則の趣旨は、裁判を一般に公開して裁判が公正に行われることを制度として保障し、ひいては裁判に対する国民の信頼を確保しようとすることにあると解されているが、この規定が、営業秘密との関係で裁判の公開を困難とする真にやむを得ない事情があり、なおかつ裁判の公開によりかえって適正な裁判を行うことができない場合にまで、憲法が裁判の公開を求めていると解するのは困難である」という趣旨に基づくものと説明されている。そして、これと同様の規定は、不正競争防止法の他、特許法及び実用新案法に設けられた
※32。憲法82条の合憲性に関する同様の趣旨により、不正競争防止法7条は、「裁判所は、不正競争による営業上の利益の侵害に係る訴訟においては、当事者の申立てにより、当事者に対し、当該侵害行為について立証するため、又は当該侵害の行為による損害の計算をするため必要な書類の提出を命ずることができる」ことを規定し(同条1項本文)、「所持者においてその提出を拒むことについて正当な理由があるとき」(同条1項ただし書)は、提出を命ずることはできないという例外事由としての「正当な理由」の判断にあたっては、裁判所は「書類の所持者にその提出をさせることができる」ものとし(同条2項第1文)、「この場合においては、何人も、その提示された書類の開示を求めることができない」とする(同条2項第2文)、インカメラ審理手続も導入したのである※33
 かつて、民事訴訟法改正の検討の際、営業秘密等の非公開証拠調が憲法82条違反かが論じられ、インカメラ審理の導入の可否は、民事訴訟手続全般の問題ともなったが、弁護士から裁判の公開原則の制限についての反対論も強く、一般原則としてインカメラ審理手続を採用することはなかった
※34。しかし、今般の司法制度改革において、知的財産訴訟の検討において、不正競争防止法等の改正により、個別法レベルでのインカメラ審理が制度化されたのである。

 4  他方、情報公開法においては、インカメラ審理手続の導入は実現されていない。検討会報告書は、まず、ヴォーン・インデックスについて、「審査会における調査審議の状況を見ると、情報公開法の規定によるヴォーン・インデックス手続が適用された件数は限定的であるものの、それ以外にも、諮問庁が自主的にあるいは審査会事務局の要請に応じて、文書の内容を整理して提出している場合もある。そのような資料が一部の答申に添付されている例も見られる。これらのヴォーン・インデックス等は、文書の量が膨大である場合や部分開示の場合においては有効であると認められる。」としている(35頁)。しかし、審査手続における有用性は認めつつも、ヴォーン・インデックス手続を行政事件訴訟法や情報公開法において明定化する方針を打ち出さず、釈明処分や釈明処分の特則を活用すべきとの提言にとどまった。すなわち、「訴訟において、裁判所は、民事訴訟法第151条に基づく釈明処分により、訴訟書類又は訴訟において引用した文書その他の物件で当事者の所持するものを提出させることができる。さらに、平成16年の行政事件訴訟法改正により釈明処分の特則(同法第23条の2)が新設され、17年4月から施行される。これにより、裁判所は、行政機関等に対し、裁決の記録や処分の理由を明らかにする資料の提出を求めることができることとなる。これらの手続が活用されることを通じて、ヴォーン・インデックスを始め不服申立手続の過程で作成された資料が訴訟手続においても有効に利用されることが期待される。」(同頁)。
 また、ヴォーン・インデックスに対する上記の位置付けに対応して、訴訟上のインカメラ審理については、その制度化を積極的には提言しなかった。
 検討会委員は、8人中6人が行政法学者であったが、検討会の議事録を通しても、ヒアリングに出席した行政訴訟を担う直接の当事者代理人とは異なり、インカメラ審理の制度化をこの時点の制度見直しにおいて、どうしても実現しなければならないということでは、合意に至らなかった。検討会事務局を担う総務省においては、自民党、公明党が衆参両議院で過半数を締める政治状況において、あえて、訴訟手続のゆえに所轄が法務省に属するとも解されるインカメラ審理手続を、総務省主導で実現しようとする意欲もまた乏しいものと解せられた。
 そもそも、情報公開法の制定を政権の公約にしたのは、1992年自民党一党支配体制が崩壊した後の、非自民の連立政権としての細川内閣であった。情報公開法の制定は小淵内閣の時であるが、その間、村山内閣において行政改革委員会行政情報公開部会が設置され、橋本内閣において情報公開法案の制定作業がなされた。自民党を中心とする連立政権において、情報公開法の制定は既定の方針であり、これを制止する理由は見出せなかった
※35。他国を見れば、アメリカ情報自由法の1966年制定、1974年改正等は、連邦議会において、いずれも、連邦政府の透明度を高めるための意欲の強い時点であった※36
 制度見直しのための検討会が、インカメラ審理は憲法82条に違反しないと考える憲法学者によって構成され、かつ、情報公開法制定に積極的な政権政党の状況下であるならば、訴訟手続におけるインカメラ審理手続の導入は実現されたかもしれないが、現在の政権は、そのような制度化に前向きではない。
 これに対し、前記民主党改正法案は、情報公開法21条の2(改正案)で、「不開示決定に係る行政文書の標目等を記載した書面の提出」と題して、「情報公開訴訟(不開示決定(行政文書の一部を開示する旨の決定及びその全部を開示しない旨の決定をいう。)又はこれに係る不服申立てに対する決裁若しくは決定に係る抗告訴訟に限る。次条において同じ。)においては、裁判所は、訴訟関係を明瞭にするため必要があると認めるときは、行政機関の長に対し、当該不開示決定に係る行政文書の標目、その開示しない部分についてこれを特定するに足りる事項、その内容の要旨及びこれを開示しない理由その他必要な事項を、その裁判所の定める方式により分類又は整理して記載した書面の提出を命ずることができる。」という、ヴォーン・インデックスを明定することを提案している。さらに、21条の3(改正案)で、「審理の特例」と題して、「情報公開訴訟においては、裁判所は、前条に規定する書面の提出を受けて審理を行った場合において、第5条又は第6条に該当する事由の有無について当該行政文書の提出を受けずに判断をすることが適正な裁判の実現という観点から相当でなく、かつ、審理の状況及び当事者の訴訟遂行の状況その他の事情を考慮して必要があると認めるときは、当事者の申立てにより、決定で、当該行政文書を保有する行政機関の長に対し、当該行政文書の提出を命ずることができる。この場合においては、何人も、裁判所に対し、提出された行政文書の開示を求めることができない。」というインカメラ審理を明定することを提言している(同条1項)。
 日本の情報公開法におけるインカメラ審理の制度化も、政府の透明度を高めるための意欲の強い政権政党の主導による時機を待たなければならないのかも知れない。


 5  不開示情報におけるインカメラ審理が特に必要なものは、情報公開法5条3号の防衛・外交情報である。大阪府水道部食糧費情報公開訴訟においては、公開請求の対象文書について、裁判所は大阪府側証人の証言を信用してしまい、「開催目的の欄に出席者の氏名が記載される場合がある」と認定したが、公開された各文書には懇談会の出席者、相手方の氏名が記載されたものは現実には1通も存在しなかった。このことは、既に述べたところであるが※37、このような誤った判断を避けることは防衛・外交情報においては、より一層慎重かつ精緻になされなければならない。この点を、松井茂記教授は、「情報公開制度のカギは、裁判所が行政機関の判断を審査できる点にある。最後の手段としていつでも裁判所が直接文書を見て行政機関の主張に理由があるかどうか判断できるからこそ、情報公開制度は実効的に機能する」と指摘している※38
 情報公開法5条3号解釈をめぐっては、情報公開審査会答申平成14年135号「河野、フルシチョフ会談(1956年10月16日〜18日)の議事録等の不開示決定に関する件」については、半世紀以前の会談記録であり、ロシアで公開された事実があることから、信頼関係が損なわれるおそれがあるとは認められない。しかし、領土交渉がなお解決されていない点等をふまえると、交渉上不利益を被るおそれがあると諮問庁が認めるに相当の理由があるとした。
 しかし、答申平成14年181号「昭和天皇とマッカーサー最高司令官との会見録等の不開示決定に関する件」においては、会談の特異性、半世紀以上経過した国際情勢の変化に照らし、3号該当性を否定した。また、答申平成15年131号「米海軍攻撃機『スカイホーク』海中転落事故に係る米国政府との協議の記録等の不開示決定に関する件」については、対象文書の記載内容、30年以上経過していること等から、3号該当性を否定したが、他方、公電に付された来電時刻、パターンコード等は暗号解読につながるとして3号該当性を認めた。
 前記2のとおり、検討会報告書によれば、インカメラ審理は、情報公開審査会で「ほとんど実施されている」ということである(同書31頁)。それをふまえて、上記答申平成14年181号や平成15年131号において、法5条3号に該当しないことが明らかになったものと解される。


第5 インカメラ審理が必要とされる裁判例の検討

 1  判決事例では、まだ情報公開法5条3号が本格的に論じられたものは見当たらないが、この点で参考となるのは、次の那覇市情報公開条例に基づく情報公開の差止めを求めた、いわゆる那覇市情報公開決定処分取消訴訟、いわゆる逆情報公開訴訟である。インカメラ審理が必要とされる事例として、以下、検討する。

 2  1989年3月15日に市民が、那覇市内にある自衛隊基地のなかに建築する対潜水艦作戦センター(ASWOC)の建築計画通知書及びその添付図面の情報公開を請求した事案である。那覇市長はいったんは非公開決定としたが、これを不服とした請求者が異議申立を行い、異議申立を受けた那覇市長は、再検討し、非公開決定を取消す方針を固めたところ、これを新聞報道で知った那覇防衛施設局が異議申立手続きに対し、行政不服審査法24条により利害関係人としての参加を申立てた。防衛施設局は、これらの情報は防衛秘密に属するものであるとして、公開に対する意見書を提出した。
 しかし、那覇市長は同年9月28日、建築計画通知書及びその添付図面には防衛秘密に属する情報は存在しない、単なる図面であるとして、異議申立に対する採決を経るまでもなく、先の非公開処分を取消し、新たに公開決定を下した。
 これに対し、国は、同日、那覇地裁に行政訴訟法による情報公開決定処分取消訴訟を提起し、その執行停止の申立てを行った。
 那覇地決平成元年10月11日判時1327号14頁は、執行停止の申立ての一部を却下し、一部を認める決定を下した
※39。那覇市長は却下部分に相当する23点の図面等を請求者に公開したが、残り21点については、公開決定があるにもかかわらず、執行停止決定によって公開できなくなった。この結果残り21点の公開処分の違法性については引続き情報公開決定処分取消訴訟で争われることとなった。
 この事案の積極的意義は、国が「防衛秘密」であると主張する情報が情報公開条例に基づいて開示されるようになったという点である。これ以後も那覇市では、自衛隊基地内の武器弾薬庫やレーダー通信施設の建築設計図面を公開しており、情報公開条例に基づく防衛情報の公開はもはや定着したものとみてよい。
 しかし、21点の建築設計図面等については、裁判所が執行停止を認め、日本で初めての情報公開決定処分取消訴訟が争われた。
 この争いには以下のような問題点があった。
(1)  本来、抗告訴訟は「公権力の行使」によって権利・利益を侵害される国民の権利・利益の救済を図ることを目的とする訴訟であるところ、果たして国が国民と同じ立場で抗告訴訟を提起する原告適格を有するか。
(2)  「防衛秘密」「防衛行政の公正かつ円滑な執行」を主張する国には、処分の取消を求める、訴えの利益はあるのか。
(3)  建築基準法18条2項によってなされた建築計画通知文書の保管は国の機関委任事務か那覇市側の固有事務か。
(4)  地方公務員法34条の守秘義務規定が那覇市情報公開条例6条1項1号の「法令により明らかに守秘義務を課された情報」に該当し、本件非公開図書はこれを理由として非公開としなければならないものか。
(5)  本件非公開図書を公開することによって、那覇市情報公開条例6条1項4号ウの「市の機関と国等の機関との間における協議、依頼、委任等に基づいて作成し、又は取得した情報であって、公開することにより国等との協力関係を著しく損なうおそれのあるもの」に該当するか。
(6)  防衛行政は那覇市情報公開条例6条1項4号オの「行政」に該当し、本件非公開図書を公開することによって「防衛行政の公正かつ円滑な執行に著しい支障を生じることが明らか」といえるか。
 以上の点が本案訴訟でどのように判断されるか注目された。


 3  那覇地判平成7年3月28日判時1547号22頁は、次のとおり判示し、国の訴えを却下した。
 第(1)点については、「抗告訴訟は、個人の権利利益の救済を目的とする主観訴訟であるから、原則として、行政主体が原告となって抗告訴訟を提起することは認められない」との立場を明らかにした。もっとも、「行政主体と言えども私人と同視される地位にある場合、あるいは国民と同様の立場に立つものと認められる場合には、例外的に、抗告訴訟を提起する余地がある」けれども、本件のように国の適正かつ円滑な行政活動を行う利益が侵害されたことを理由とする訴えは、まさに行政主体が、他の行政主体に属する行政庁の公権力の行使によって、その行政権限の行使を妨げられるという場合そのものであり、いかなる意味でも、個人の自由や権利の侵害と同様に見る余地はなく、法律上の争訟にあたらない、とした。
 さらに、本件において原告が主張する秘密とは、国の防衛上の秘密である。防衛上の秘密は、私権であるプライバシーの権利とは全く異なり、国家の安全保障に関わる公共の利益そのものである。また、防衛行政を具体的に担う主体であり、人や物的設備等を組織化した集合体としての防衛庁を中心とする国の行政機構を観念した上、営業に係る秘密を保護される私企業と比較しても、両者はその目的が全く異なり、防衛行政遂行の過程には私的権利の実現と言う性質はなく、私的な側面がない。以上のとおり、国の秘密保護の利益を侵害されたことを理由とする訴えも、主観訴訟の外形的枠組みには一応合致しているものの、救済を求める利益の性質は私的利益ではなく公的利益といわざるを得ないから、法律上の争訟にあたらず、抗告訴訟の枠を超えるものである。
 本件訴訟の性格は一種の機関訴訟であり、これを許す特別の規定がないのであるから、本件各訴えは不適法というべきである。よって本件各訴えは却下を免れないのである、と判示された。
 本件訴訟は、地方自治体の情報公開決定処分に対して、国が処分取消を求めるという、いわゆる情報公開差止訴訟であった。
 アメリカ情報自由法の下では、連邦政府機関による情報公開措置に対し、情報提供者がその情報公開の差止を求めて、いわゆる逆情報公開訴訟−逆FOIA訴訟(reverse FOIA suit)と呼ばれる−が提起されることがあるが、日本でも逆情報公開訴訟を提起しうる、いわゆる原告適格が問題となる。
 那覇地判は、地方自治体の情報公開決定処分に対しては国は防衛上の秘密の保護を理由として処分取消の抗告訴訟を提起することは法律上の争訟(裁判所法3条)に該たらず、認められないとし、特別の立法的措置がない限りこの訴訟類型における逆情報公開訴訟を否定したのである。
 傍論として、那覇地判は、本件図書がたまたま機関委任事務の処理に関して取得した文書であり、その管理方法についても主務大臣である建設大臣の指揮監督権が及ぶものであるから、職務執行命令訴訟(機関訴訟)を提起することができた旨判示しているが、本件事案においては、抗告訴訟が提起できなくても、職務執行命令訴訟を提起できたのであって、国は提訴段階で選択を誤ったというべきではなかろうか。
 なお、那覇地判は、機関委任事務の処理に関して取得したものでない文書の場合を想定すると、職務執行命令訴訟の方途もなく、司法的救済は不可能ということになる旨指摘するが、これはやむを得ない結論である。これまで、旧自治省は情報公開条例の制定にあたって、事実上、「国等との協力関係を損なう」情報は非公開とすることができる旨の適用除外事項を条例の中に規定するように指導してきた
※40。現に多くの地方公共団体の条例には、その種の適用除外事項が存在している。那覇市情報公開条例6条1項4号ウも同種の非公開事由である。情報公開条例に基づく地方公共団体の固有事務の公開について、国はこれを放置してきたのであるから、本件判決のような結果は当然に予想されたことといえよう。
 同判決は、かかる結果は、情報公開に係る法制を整備して、地方公共団体の本旨を侵害しない範囲で、国や他の地方公共団体との利害の調整を図り、国等による情報の開示の差し止めの方法について、合理的な仕組みを制度化することで解消すべきである。その際には、裁判所を解決調整機関として、機関訴訟の制度を盛り込むことも方途のひとつであろう、と述べるが、情報公開法の制定にあたり、同法と情報公開条例との関係について、議論をよぶ提言であると解せられた。しかし、情報公開法の制定にあたり、特に議論はなされず、課題として残った。
 これに付加して、本件訴訟の審理経過や本案について判断を示しておかなければ控訴審において本件訴訟の争訟性について異なる判断がなされた場合には必要的差戻しとなり訴訟経済に著しく反することに鑑み、いわゆる狭義の原告適格の有無についてはさて置き、本案についても、当裁判所の判断を示しておくこととする、として、第(2)点については論及を避けたが、第(3)点以下の本案については、次のとおり判示した。
 第(3)点については、国の機関委任事務の処理に関連して収集・作成された情報であっても、その公開は原則として地方公共団体の固有事務と解すべきであり、情報公開条例による公開の対象とすることができる、とした。したがって、本件条例が、機関委任事務により取得した文書についても、公開の対象になると定めたことは、地方自治法14条1項の趣旨に反しない、として、那覇市側の固有事務であることを明らかにした。この点は、情報公開法の制定の際にも、機関委任事務により取得した文書の取扱いについて、当然の前提とされるべきところであったが、その後、機関委任事務が廃止され、法定受託事務が制度化されたので、問題状況が変わった。
 第(4)点について。那覇市条例は、非公開とすべき情報として、6条1項1号において「法令により明らかに守秘義務が課されている情報」を掲げている。しかし、本件図書に記載された情報は、これにはあたらない、とされた。その理由は、
(1)  建築基準法93条の2(確認の申請書に関する図書の閲覧)の規定は、守秘義務を課したものと解することはできないから、上記「法令」には該当しない。
(2)  本件図書に記載された情報が、秘匿の必要性を具備していない。
(3)  具体的には、本件図書には秘密保全に関する訓令に基づく秘密の指定手続がなされておらず、またそもそも本件図書は建設に関与する多くの人の目に触れざるを得ないという性格を有するうえ、実際の管理のあり方を見ても、秘密保全のために必要と考えられる万全の措置がとられているとはいい難い、
ということである。
 また23点の公開図書(本件公開図書)により、本件建物地下階部分の外壁、天井(地下階のある部分に限る)、地下床スラブのそれぞれの厚さ並びに土かぶり厚及び地下部分の深さの様相を相当程度まで推定することができる。その結果によれば、これらの点においては、本件建物地下階部分の様相は、およそ抗たん性の程度を問題とするまでもない程脆弱なものであることは明らかであった。さらに、地下階部分は一体として利用され、地下階全体の床面積も1423.82平方メートルの程度の広さしかないのであるから、抗たん性の観点からみて、地上階のある部分の天井の厚さが推定できる以上、地上階のない部分の天井の厚さを秘匿することの必要性につき、多大な疑問が生じるところであるばかりか、本件公開図書によって、本件建物の地下階の様相が上記の程度まで判明し、判明した結果によれば、地下化したという以外には特段抗たん性を備えた施設ではないのではないかとの強い疑念が生じている。
 那覇市条例6条1項1号に該当しないこと(本件処分の適法性を基礎付ける事項)の主張立証責任を被告那覇市長が負うとしても、また、情報の内容を公開することなく立証活動を行わなければならないという訴訟活動上の制約を考慮に入れるとしても、原告国において、具体的な事実を主張して右の疑念を相当程度払拭するべく反証しなければならない。
 ところが、国側証人はいずれも抗たん性に係る情報の重要性を一般論として抽象的に主張するのみで、本件図書に記載された内容に則しての重要性を何ら説明しないし、また原告提出の書証も右反証として充分ではない。
 さらに、原告が主張する警備上の支障に係る情報については、本件図書を秘匿することが警備上重要な意味を有すると認めることについて著しい疑問があるうえ、本件公開図書により原告が最も秘匿を要するとする電子機器、通信機器や発電機が設置される部屋がどこであるかは、極めて容易に判明する。
 そして、原告は、本件図書のうち二つの図書から、ASWOC施設のコンピューターの消費電力の最大値が推定でき、消費電力が明らかになれば、コンピューターの性能が明らかとなると主張するが、これらの図書からASWOC施設のコンピューターの消費電力の最大値を意味ある精度で推定することはできない。
 したがって、ASWOCが防衛上重要な施設であることを前提としても、本件図書に記載された情報には、要保護性が認められないというべきである、と判示した。
 これまで、沖縄密約事件最高裁決定(最決昭和53年5月31日刑集32巻3号457頁)等により、「国家公務員法109条12号、100条1項にいう秘密とは、非公知の事実であって、実質的にもそれを秘密として保護するに値すると認められるものをいい、その判定は司法判断に属する」とされてきたところであるが、本件判決は、右最高裁決定等をふまえて本件未公開図書の情報は地方公務員法34条、自衛隊法59条にいう「秘密」として保護するに値しないと判断したものである。国が「秘密」と主張するものでも、特に、秘密指定もなされていないことも一判断要素として「秘密」にあたらないとしたものであって、「秘密」の限界を画するものとして意義ある判断といえよう。
 第(5)点について、本件非公開図書に記載された情報は、公開しても国との協力関係は損なわれない、つまり那覇市条例6条1項4号ウに該当しない。その理由は、次の(1)ないし(3)のとおりであるとした。
(1)  原告国は、建設省住宅局建築指導課長作成の「建築基準法第18条2項による図書等閲覧について(回答)」という、沖縄県土木建築部長からの照会に対する回答書をもらって、建設大臣が指揮監督権ないし勧告権により、被告に対して、本件図書に記載された情報を公開しないように指導した旨主張する。しかし、右回答書には一般的、抽象的な見解が示されているに過ぎず、公開の可否の基準についての明確な指示がないし、本件図書に則しての具体的な指示も示されていない。したがって、右回答書をもって「具体的かつ明確」な指示と言うことはできない。
(2)  また、国は、本件処分がなされると、建築基準行政に多大な支障を生じ、ひいては国との協力関係を著しく損なうと主張する。しかし、被告や他の地方自治体による自衛隊施設に係る計画通知書や添付書類の公開決定等がなされた後にも、建築計画適合審査事務に支障を来すという事態が生じているとは証拠上認められない。
(3)  さらに、国は、防衛行政の分野において、国との協力関係を著しく損なうおそれがあると主張する。しかしながら、既に検討したとおり、本件図書に記載された情報は要保護性を欠き、本件図書が公開されても防衛行政上著しい支障が生じるとは認められないから、国の主張は前提を欠く。
 第(6)点について、那覇市条例は、非公開とすることができる情報として、6条1項4号オにおいて「その他公開することにより、行政の公正かつ円滑な執行に著しい支障を生じることが明らかな情報」を掲げているが、右規定にいう「行政」とは市政に限られると解するのが相当であり、国等の行政をも含む一般行政を指すものと解すべきではない、と判示した。

 4  福岡高判平成8年9月24日判時1581号30頁は、国が21点の図面の公開処分の取消しを請求できるか、すなわち国という行政主体が提起した情報公開決定処分取消訴訟が適法であるかについて、裁判所法3条の「法律上の争訟」には該当しないと判断した。
 すなわち、この福岡高判は、本件訴訟が法律上の争訟であるか否かについて、一般論として、
「1  憲法76条1項は、当事者間の具体的な紛争について法令を適用してこれを解決する国家作用である司法権が、最高裁判所及び法律の定めによって設置された下級裁判所に属するとし、これを受けて裁判所法3条は、司法権の内容を具体化し、明確にしており、裁判所に属する司法権の及ぶ対象、すなわち裁判所が固有の権限に基づいて審判することのできる対象を「法律上の争訟」としている。この法律上の争訟とは、当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって、かつ、それが法令の適用により、終局的に解決ができるものであり、それに限られる(最高裁昭和39年(行ツ)第61号同41年2月8日第三小法廷判決・民集20巻2号196頁、最高裁昭和51年(オ)第749号同56年4月7日第三小法廷判決・民集35巻3号443頁参照)。
 2  そこで、本件のように、国と地方公共団体又はその機関が争訟の当事者となっている場合に、その間における紛争が一般的に法律上の争訟にあたるか否かについてみるに、国及び地方公共団体は、いずれも行政権を行使する主体であるが、他方、行政権の行使に際して、私人又は私的団体と同様に、財産を保有し、あるいは私的経済行為を行うことができる。そして、私人又は私的団体間の紛争は、前記要件を充たせば法律上の争訟にあたることはいうまでもないところ、国又は地方公共団体が私人または私的団体と同様の権利義務の主体となっている場合の紛争を、当事者が国又は地方公共団体であるからといって、法律上の争訟ではないという理由はない。したがって、国又は地方公共団体の私人又は私的団体と同様の権利義務に関する紛争は、前記要件を充足するかぎり、法律上の争訟にあたるということができる。
 しかし、他方、国又は地方公共団体に属する行政権限の根源である公権力は、その性質上、本来は一体のものであるが、これを国及び地方公共団体の各個の行政機関に分属させているのは、行政目的、行政事項などを考慮し、地方自治の本旨にも配慮しつつ、行政の執行において、矛盾を避け、統一を図り、適正及び合理性を保って行政効率の促進を図るため、分業を行わねばならない必要性に基づくものに他ならない。そうすると、このようにして分属させられた個々の行政権限又はその行使について矛盾や抵触が生じ、それを巡って各行政機関の間に紛争が発生したとしても、この紛争は、行政組織内部において処理し解決されるべき性質のものであり、専ら、司法機関において法令を適用して終局的に解決すべき紛争、すなわち法律上の争訟ということはできない。また、裁判所法3条は、法律の定めによって、法律上の争訟にあたらない個別の紛争の司法的解決を裁判所の権限とすることを認めており、行政事件訴訟法42条が、特定の場合に限って機関訴訟としてこれを認めていることは、行政主体又はその機関を当事者とする国又は公共団体の機関相互間における権限の存否又はその行使に関する紛争が裁判所法3条にいう法律上の争訟には当たらないことを前提としているものであると解せられる。」
と述べる。
 この一般論を本件事案にあてはめて、「本件図書の内容は、控訴人が防衛行政の遂行上、対外的に秘密とすることを要するものであり、右秘密を保持することは、防衛行政の遂行による公共の利益に資する上で必須のものというべきであるから、右秘密の保持による利益は、私人において保護されるべきプライバシーの権利とか、保護されるべき私的団体の営業上の秘密と同様のものとはいえず、控訴人の防衛行政活動に関する公的秘密というべきものである。
 また、本件処分の取消しを求める控訴人の法的地位を考えるに当たって、単に建築物そのものの所有権の帰属主体であることを理由として、あるいは、その利用目的から離れて建物自体の管理行為が非権力的作用であることを理由として、控訴人が私的財産権の帰属主体と同様に保護されるという控訴人の主張は、実際的ではない。」としたうえで、「このようにみてくると、本件図書の公開に関して、被控訴人の本件条例に基づく権限の行使と、控訴人の防衛行政遂行上の秘密の保持ないしこの行政活動に必要な本件建物の管理という防衛行政権限の行使との間において抵触が生じ(本件図書の保管事務が那覇市の固有の事務であるか、はたまた建築基準法による国からの機関委任事務であるかは、本件の法律上の争訟性の判断においては、直接には関係がない)、それを巡って右両行政主体又はその機関の間に紛争が発生しているのであるから、先に述べたところに基づけば、この紛争は、裁判所法3条がいうところの法律上の争訟には該当しないものであるといわなければならない。」と結論づけている。さらに、特に那覇市条例に基づく公開決定を他の行政主体又はその機関が争う場合に、その審判を裁判所の権限とする特別の法律の定めはないから、那覇市条例の規定及び関連諸規定によって形成される法体系を通して、国が那覇市長の行った本件図書の公開決定の取消しを求める法律上の利益を有するか否かを判断するといった抗告訴訟における原告適格の存否について検討する必要までもないとして、本件訴えを不適法としたのである。
 福岡高判は、那覇地判の前記第(1)点と同様の見解に立つものであるが、第(2)点以下の争点には触れなかった。


 5  国は上告したが、最判平成13年7月13日判例地方自治223号22頁は、上告を棄却した。しかし、その判旨は福岡高判とは少し異なっている。本件訴えは、裁判所法3条の「法律上の争訟」に当たるが、個別的利益として保護する趣旨を含むものと解することはできず、それゆえ国が公開処分の取消しを求める原告適格を有するということはできないと判示するのである。
 すなわち、「記録によると、本件文書は、建築基準法18条2項に基づき那覇市建築主事に提出された建築工事計画通知書及びこれに添付された本件建物の設計図面等であり、上告人は、本件文書の公開によって国有財産である本件建物の内部構造等が明らかになると、警備上の支障が生じるほか、外部からの攻撃に対応する機能の減殺により本件建物の安全性が低減するなど、本件建物の所有者として有する固有の利益が侵害されることをも理由として、本件各処分の取消しを求めていると理解することができる。そうすると、本件訴えは、法律上の争訟に当たるというべきであり、本件訴えは法律上の争訟に当たらないとした原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があるものというべきである」とし、さらに、「ところで、行政事件訴訟法9条にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数の者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり、当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである(最高裁平成元年(行ツ)第130号同4年9月22日第3小法廷判決・民集46巻6号571頁参照)。
 この点を本件条例についてみるに、本件条例6条1項は、同項各号所定の情報が記録されている公文書は非公開とすることができる旨を定めているが、その趣旨、文言等に照らし、同項が上告人の主張に係る利益を個別的利益として保護する趣旨を含むものと解することはできず、他に、上告人の主張に係る利益を個別的利益として保護する趣旨を含むことをうかがわせる規定も見当たらない。そうすると、上告人が本件各処分の取消しを求める原告適格を有するということはできないから、本件訴えは、結局、不適法なものに帰するというべきである」と判旨している。
 そして、結論において、上告人の本件訴えは却下すべきものであるから、原審の前記法令違反は、判決の結論に影響を及ぼさない、として上告を棄却している。
 この結果、設計図書21枚についての公開決定は確定し、開示請求者に公開された。最二小判には、「国又は地方公共団体等の行政主体が裁判によって行政処分の取消しを求める場合には、私人が取消訴訟を提起する場合とは異なり、当該行政主体には当該行政処分の取消しを求める原告適格がある」と解する、福田博裁判官の反対意見がある。
 この最判の多数意見に従っても、那覇市条例において、防衛外交情報の公開を禁止する非公開事由が規定されていれば、「上告人の主張に係る利益を個別的利益として保護する趣旨を含むものと解すること」ができることになり、国に原告適格があることになろう
※41
 もっとも、本件では、那覇地判が前記争点第(4)ないし第(6)点について判示したとおり、仮に原告適格を認めても、本件非公開図書は、那覇市条例6条1項1号の「法令により明らかに守秘義務を課された情報」、同4号ウの「市の機関と国等の機関との間における協議、依頼、委任等に基づいて作成し、又は取得した情報であって、公開することにより国等との協力関係を著しく損なうおそれのあるもの」、同4号オの「行政」に「防衛行政」を読み込むことを前提とした「防衛行政の公正かつ円滑な執行に著しい支障を生じることが明らか」とはいえないことが、いずれも明らかである。それゆえ、この最判のいう「上告人が本件各処分の取消しを求める原告適格を有するということはできない」との結論に達したものと解される。その意味では、那覇地判において本件非公開図書の内容に立ち入り、詳細に那覇市条例6条1項1号、4号ウ、4号オの非公開事由非該当性を論じたことはこの最判に大きな影響を与えたものと解される。

 6  那覇地方裁判所は、この訴訟の過程の中で、原告と被告に対し、8回にわたり文書で主張について求釈明した。特に非公開図書の具体的内容についても非開示の事実を明らかにしない限度で記載内容の特定に努めた。また、非公開のラウンドテーブルで、公開図書から非公開情報を推認できるかについて、被告那覇市長の代理人から詳細な説明を求めた※42。この訴訟指揮は情報公開裁判において、非公開事由を個別具体的に主張立証するために最も重要なところである。文書・図画の特定、記載内容の概要が不明なままでは、その公開非公開の判断自体が雑になされる疑念があるからである。この審理方式が、公開図書の説明のためでなく、非公開図書の説明であれば、非公開図書自体のインカメラ審理に連なるものである。そこで、被告が非公開図書を証拠として提出し、迅速に立証しようとしたが、裁判所は、その証拠申出を却下した※43。これによって、単なる図面の公開についての裁判で第一審判決まで約6年もかかることとなった。このため、原告は、証人尋問によって非公開図書の記載内容を特定したうえで、さらに、第1審最終準備書面において、本稿末尾添付のような非公開図書のイメージ図を併記して、非公開図書を非公開としなければならない要保護性はないことを視覚化した。ヴォーン・インデックスを応用し、非公開部分を類型化してその公開の是非を争うこととしたのである。那覇地方裁判所の裁判官は、このイメージ図を見ることによって安心して国の請求を却下することができたものと解される。那覇地方裁判所も、非公開図書自体のインカメラ審理には踏み切れなかったのであるが、インカメラ審理が認められれば、当該訴訟はより迅速に進行したと思われるのであって、情報公開訴訟の証拠調べのあり方に工夫を必要とするところであった。
 情報公開条例においては、訴訟手続について規定することはできない。情報公開法で、第1の4の立法提言や、第4、5の民主党改正法案のような、インカメラ審理手続が規定され、その中で、情報公開条例に基づく非公開決定処分取消訴訟等においても同様のインカメラ審理手続が採用されることを明記するべきこととなろう。そして、この場合には、弁論準備手続や準備的口頭弁論手続がインカメラ審理のために活用されるべきであろう
※44

 7  防衛情報の公開については、この他、名古屋市において陸上自衛隊守山駐屯地の危険物施設台帳が名古屋市条例に基づいて公開された際の、名古屋市公文書公開審査会の一部非公開処分裁決がある。この裁決に従い、名古屋市は建築計画通知書の中の配置図に記載された建物使用一覧表、保管管理者の氏名、階級を載せた危険物施設台帳を一部公開した※45
 また、米軍相模補給廠に新築の四棟の倉庫(一般倉庫、資材倉庫、低温倉庫、冷蔵倉庫)について建築基準法18条2項に基づき横浜防衛施設局から相模原市に提出された計画通知書及びその添付図面を相模原市条例に基づき公開請求した事例について、相模原市長は米軍が非公開を求めているという防衛庁の言い分に従って同条例6条1項3号の「国・・・の機関からの協議、依頼等に基づいて作成し、又は取得した情報であって、公開することにより、国等との協力関係又は信頼関係を著しく害するおそれのあるもの」に該当するものとして非公開処分にした。このため、請求者は横浜地方裁判所に公文書非公開処分取消訴訟を提起したが、その後請求者がアメリカの情報自由法に基づく公開請求をしたところ、米軍を通じて公開された。実は米軍は非公開を求めていなかったことが暴露された事例である。この事例では相模原市長は公文書の公開によっても国との「協力関係又は信頼関係を著しく害する」ことには該当しないことを認め、非公開処分を取消して、請求文書をすべて公開する旨の決定をした
※46
 情報公開審査会の答申においては、第4の5で述べた答申平成14年181号、平成15年131号の他、平成13年25号「1998年のカドミウム対策省内連絡会議に関する文書」及び同26号「2000年のカドミウム対策省内連絡会議に関する文書」の一部非公開決定の件において、「別表に掲げる『開示すべき部分』については、「カドミウム省内連絡会議」の進行状況、コーデックス委員会におけるこれまでの経緯、カドミウムの基準値の検討に関する客観的データ、国内対策の在り方、関係者への情報提供等に関する情報が記載されており、これらの情報は、諸外国との交渉事項に関する我が国の対処方針等に係るものではないと認められ、これらを公にすることにより、他国若しくは国際機関との交渉上、不利益を被るおそれがあるとは認められない。したがって、別表の開示すべき部分は法5条3号に該当する情報とは認められない。」とするものがある。
 法5条3号の不開示事由に該当しないとする判断においては、「行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある」か否かではなく、「交渉上不利益を被るおそれ」等の存否で判断される傾向が見受けられる。
 以上のとおり、防衛・外交情報についても、地方公共団体が情報公開条例を有する場合には同条例に基づいて着実に公開されている。このような公開実例を積み重ねながら、情報公開法の解釈にあたり、ヴォーン・インデックスを前提としたインカメラ審理を尽くしながら、真に非公開とされるべき防衛・外交情報とは何かが検討されるべきであろう。そのうえで、「行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある」(法5条3号)の要件が必要か否かが、個別具体的に検討されるべきであろう
※47

第6 歴史資料として重要な公文書等の適切な保存のための必要な措置

 1  前記のとおり、公開実例を積み重ねていくとしても、現行の情報公開法5条3号にかかる防衛・外交情報については、特に「公にすることにより、国の安全が害されるおそれ、他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めることつき相当の理由がある情報」は残る。このような行政文書は、適正に保存され、文書の保管期限を経過した時に、非現用文書として、国立公文書館、外務省外交史料館、防衛庁防衛研究所図書館等に移管される。
 行政文書の保存年限を経過するまで不開示だった情報であっても、非現用文書として、国立公文書館等に適正に移管され、全部公開の基本原則に基づいた開示手続にゆだねられる。
 しかし、第1の8で述べたとおり、情報公開法施行の2001年度は、各府庁等からの移管申出数が少なかったために、「歴史資料として重要な公文書等の適切な保存・利用等のための研究会」、ついで、「公文書等の適切な管理、保存及び利用に関する懇談会」が設置され、報告書をとりまとめた。


 2  これを受けて、2005年6月に、公文書の移管基準の運用の細目を申し合わせた、「歴史資料として重要な公文書等の適切な保存のための必要な措置について(平成13年3月30日閣議決定)の実施について」(各府省官房長等申合せ)により、歴史公文書等の内閣総理大臣への移管手続が改正された。
 上記平成13年3月30日内閣決定「歴史資料として重要な公文書等の適切な保存のために必要な措置について」とは、国の行政機関の保管に係る歴史資料として重要な公文書の適切な保存のために必要な措置を講ずるため、国立公文書館法15条1項に基づき、次のとおり定めることとし、平成13年4月1日から実施する、としたものである。
 すなわち、閣議決定1として、国の行政機関がその適切な保存のために必要な措置を講ずるものとされている「歴史資料として重要な公文書等」の中核となるものは、「(1) 我が国政府の過去の主要な活動を跡づけるために必要な、国政上の重要な事項又はその他の所管行政上の重要な事項のうち所管行政にかかる重要な政策等国政上の重要な事項に準ずる重要性があると認められるものに係る意思決定」と「(2) (1)の決定に至るまでの審議、検討又は協議の過程及びその決定に基づく施策の遂行過程」に掲げる事項が記録されたものとされる。
 そのうえで、閣議決定2として、「歴史資料として重要な公文書等の適切な保存のために必要な措置」とは、行政機関から内閣総理大臣(独立行政法人国立公文書館)に対し、当該行政機関の保管にかかる歴史資料として重要な公文書等を移管することとし、ただし、歴史資料として重要な公文書等の移管を受けて保存し、及び利用に供する機関として適当なものが置かれる行政機関においては、当該機関に当該公文書等を移管することとしたのである。
 この閣議決定を前提として、上記各府省官房長等申合せによれば、その1として、歴史資料として重要な公文書等として国の行政機関(宮内庁書陵部と外務省外交史料館を除く)から内閣総理大臣(独立行政法人国立公文書館)に移管すべきものは、情報公開法施行令16条1項8号に規定する保存期間が満了した行政文書のうち、「(1) 国政上の重要な事項又はその他の所管行政上の重要な事項のうち所管行政に係る重要な政策等国政上の重要な事項に準ずる重要性があると認められるもの(以下「国政上の重要事項等」という。)に係る意思決定を行うための決裁文書(当該決裁文書と一体不可分の記録であって、当該決裁文書の内容又は当該意思決定に至るまでの審議、検討若しくは協議の過程が記録されたものを含む。)」、「(2) 国政上の重要事項等に係る意思決定に基づく当該行政機関の事務及び事業の実績が記録されたもの((1)に該当するものを除く。)」、「(3) 昭和20年までに作成され、又は取得されたもの((1)又は(2)に該当するものを除く。)」、「(4) 各行政機関(宮内庁書陵部と外務省外交史料館を除く)の保有する行政文書であって、(1)から(3)までのいずれにも該当しないもののうち、結果として国政上多大な影響を及ぼすこととなった事項について記録されたものその他内閣総理大臣が国立公文書館において保存することが適当であると認めるものであって、移管について各行政機関と合意したもの」とされた。
 そのうえで、その2として、歴史資料として重要な公文書等の移管手続については、「(1) 歴史資料として重要な公文書等の各行政機関から内閣総理大臣への移管については、内閣総理大臣が国立公文書館の意見を聴いて各年度ごとに策定する移管計画に基づいて、移管しようとする行政文書の保存期間が満了した後直ちに行う。」、「(2) 各行政機関の長は、内閣総理大臣が移管計画を策定しようとする対象年度内に保存期間が満了することとなる行政文書であって、かつ、保存期間を延長する必要のないもののうち、1(1)から(3)までの一に該当するものとして国立公文書館において保存することが適当であると認められるものを内閣総理大臣に申し出ることとする。」、「(3) 内閣総理大臣は、国立公文書館の意見を聴いて、各行政機関の長からの申出のあった行政文書のうち、国立公文書館において保存することが適当であると認められるものの移管を受けることとする。また、国立公文書館の意見を聴いて、1(4)に該当する可能性のある行政文書があると認められる場合、その移管の可否について各行政機関の長と協議し、合意に達したものの移管を受けることとする。」、とされた。
 さらに、その3として、歴史資料として重要な公文書等の移管を受けて保存し、利用に供する機関として適当なものが置かれる行政機関については、「(1) 閣議決定2のただし書に掲げる「歴史資料として重要な公文書等の移管を受けて保存し、及び利用に供する機関として適当なもの」は、情報公開法施行令2条2項の規定に基づく総務大臣が指定した機関のうち、宮内庁書陵部と外務省外交史料館とする」、「(2) 歴史資料として重要な公文書等として(1)に掲げる機関に移管すべきものは、当該機関が置かれる行政機関の保有する行政文書であって、情報公開法施行令16条1項8号に規定する保存期間が満了したもののうち、(一)その1(1)から(3)までに掲げるもの、(二)(一)に該当しないもののうち、結果として国政上多大な影響を及ぼすこととなった事項について記録されたものその他当該行政機関の長が当該行政機関に置かれる(1)に掲げる機関において保存することが適当であると認めるものとする」、「(3) (1)に掲げる機関が歴史資料として重要な公文書等の移管を受ける場合の手続は、当該機関が置かれる行政機関において定める。」とされた。
 この各府省官房長等申合せをふまえて、「「歴史資料として重要な公文書等」として内閣総理大臣(国立公文書館)等に移管することが適当な行政文書についての基本的考え方」が取りまとめられている。これによれば、情報公開法施行令別表2に定める最低保存期間が30年である文書、具体的には、「条約その他の国際約束の署名又は締結のための決裁文書、法律の制定・改廃の決裁文書、特殊法人の設立、廃止の決裁文書、基本的な計画の策定・変更・廃止の決裁文書、予算・組織・定員の基本的事項の決裁文書」、「認可法人の設立・廃止の決裁文書」、「関係閣僚会議付議のための決裁文書、政務次官会議付議のための決裁文書、事務次官等会議付議のための決裁文書」は、原則としてすべて移管対象として検討することが適当、とされている。
 また、同じく最低保存期間が30年である、「府省令等の制定・改廃のための決裁文書、行政文書の管理に関する定め」は、府省令については原則としてすべて移管対象として検討するとともに、その他の規則については、府省令と同程度の重要性が認められるものについて移管対象として検討することが適当、とされている。
 さらに、最高保存期間が10年である、「審議会等の答申、建議又は意見」、「法令の解釈・運用基準の決裁文書、許認可等の審査基準、不利益処分の処分基準」、「条約その他の国際約束の解釈・運用基準の決裁文書、所管行政に係る重要な政策の決定に係る決裁文書」と、最低保存期間が5年である「事務又は事業の方針・計画書、事務又は事業の実績報告書」、「業務実績報告、指導監督の結果報告書」と、最低保存期間が3年である「政策の決定又は遂行に反映させるために実施した調査又は研究の結果報告書」、「予算要求説明資料、業務上の参考としたデータ、行政運営上の懇談会の検討結果」は、国政上の重要事項等に係る意思決定並びに当該意思決定に至るまでの審議、検討又は協議の過程及び当該意思決定に基づく施策の遂行過程を理解するために必要な記録として、継続的な保存の必要性が認められるものについて移管対象として検討することが適当とされている。


 3  この各府省官房長官申合せと「「歴史資料として重要案公文書等」として内閣総理大臣(国立公文書館)等に移管することが適当な行政文書についての基本的考え方」は、2で述べたとおり、情報公開法20条1項「行政機関の長は、この法律の適正かつ円滑な運用に資するため、行政文書を適正に管理するものとする」との規定を受け、同2項の「行政文書の管理に関する定め」に基づき制定された、行政機関の保有する情報の公開に関する法律施行令16条を前提とする。そして、同16条の別表2が定める行政文書の区分に応じた保存年限を、最低保存年限として、保存期間経過後は、非現用文書として、国立公文書館法15条の定める移管手続を確実なものとする。
 この各府省官房長申合せが、情報公開法5条3号に基づいて不開示となった防衛外交情報をも含め、歴史資料として重要な公文書等を保存することを実効あらしめるのであり、その運用が注目される。


 4  行政文書が保存期間経過後に非現用文書として保管される以前において、現用文書として紛失等がないよう、さらに検討されているのが中間書庫システムと電子公文書等の電子データとしての保管である。
 中間書庫は、内閣府設置法4条3項43号及び国立公文書館法15条1項の規定に基づき、「歴史公文書等の適切な保存のために必要な措置」の一つとして、各府省等が申し合わせることにより実現することができると考えられている(懇談会報告書7頁)。すなわち、内閣府が公文書等を保存期間満了前に、府省等横断的な共用施設としての中間書庫に移送し、そこで保管する。ただし、公文書等の物理的な占有は移動されるが、情報公開法に規定された「行政文書」の法的な保有の主体は、引き続き移送元府省等であり、この移送元府省等が情報公開請求の受付窓口となり、開示不開示の手続を行う。中間書庫に移送される公文書等の範囲については、歴史公文書等の保有期間満了後における国立公文書館への確実な移管に資するという目的に照らし、一定の基準を設けることが予定されている。その場合の基準の内容としては、例えば、(1)移管基準に基づき、将来国立公文書館に移管することが想定されるもの、(2)一定期間以上の保存期間を有するもの、(3)特に散逸防止の必要性が高いもの(例:内閣官房等に臨時に置かれ、廃止された組織で作成・取得された公文書等)等が考えられている。
 当面は、移送される公文書等の媒体の大半が紙媒体であると想定されるため、それを念頭に、東京霞が関から遠くない場所(当該府省等が必要としたときは直ちに霞が関の本庁に移動できるような距離にあること)に中間書庫を設置することの制度設計がなされる予定である。


 5  電子媒体による公文書等の管理・移管・保存のあり方は、「今実行できることから着手する」課題である(懇談会報告書30頁)。
 政府は、1990年代から行政の情報化を進め、2001年1月に「e-Japan戦略」を策定し、「5年以内(2005年)に世界最先端のIT国家となる」との目標を掲げた。政府としては、行政サービスの分野における電子政府化を推進し職員1人1台のパソコンの配置、府省等内LAN及び霞が関WAN等ネットワークの整備等を行ってきた。これに伴い、政府においては、行政文書の電子的な作成・流通が、急速に進展している。しかし、電子的に作成された公文書等が電子媒体に保存される比率は低い。そこで、電子公文書等は、基本的には電子媒体のまま保存することとし、長期保存の安定性、効率性等の観点から、各府省等における作成時から歴史資料としての保存、利用段階までのライフサイクル全体の管理を行うこととする。さらに、歴史資料として保存・利用の対象となる電子公文書等は、保存期間満了前の可能な限り早期に、一定の集中管理化で長期保存上の措置を講じる必要のあることが提言された(懇談会報告書13頁)。
 このような必要性をふまえて、(1)電子公文書等の特性を踏まえて講ずべき長期保存上の措置として、セキュリティ確保等の必要性、媒体変換の必要性、メタデータ
※48標準化等の必要性、フォーマット標準化の必要性などが指摘されている。
 また、(2)どのような電子公文書等(種類、範囲、属性)を保存対象とするか、その場合の原本とは何か、また原本性を確保するために技術的課題は何かも検討課題である。これについては、その記録としての価値を維持するのに不可欠な「エッセンス」のみを保存することや、媒体劣化等による消失・変化及び不正なアクセス、データの改ざん等の防止等による「原本性」の確保をルール化する必要があるとされている。
 さらに、(3)電子公文書等の適切な移送時期及び移送方法としては、保存期間満了前であっても電子公文書等の作成後可能な限り早期に、電子公文書等を内閣府又は国立公文書館に移送し、長期保存上の措置を一括して講じることが必要であるとされている。
 (4)国立公文書館がインターネット及びイントラネットのウェブ上の公文書等を歴史資料として適切に保存していくためには、いずれも他の電子公文書等と同様に、保存期間満了前に、対象を評価選別のうえ、移送することとし、収集エンジン等で収集したうえで、ページの構造を再構成したり、ページの機能を維持するための措置をとることなどが指摘されている。
 懇談会は、これらの課題が、政府全体での取組みを必要とし、中でも内閣府及び国立公文書館には、関係機関と緊密に連絡しつつ、ガイドライン及びフォーマット等の策定において中心的な役割を担っていくことが期待されているとしている(懇談会報告書31頁)。


第7 まとめ

 以上、情報公開法の見直しと残された課題を概観した。
残された課題のうちで具体的な実現が最も必要とされるものは、訴訟手続におけるインカメラ審理手続の導入と、行政文書管理上の中間書庫システムと電子公文書等の電子データとしての保管体制の確立である。
 第4で述べたとおり、訴訟手続におけるインカメラ審理は、政府は、引き続き検討すべき課題として位置付けるにとどまり、現在のところ、その制度化に消極的である。理論的には、情報公開法制定時よりも議論は整理されてはいるが、情報公開法の直接のきっかけが、その制定に積極的な政党への政権交代にあったように、インカメラ審理の制度化にも、政権交代が必要であるかもしれない。
 他方、行政文書の管理上の中間書庫システムと電子公文書等の電子データとしての保管体制の確立は、むしろ、情報公開法と国立公文書館法の残された課題として、政府、特に内閣府を中心として、その制度化が、静かに進行している。懇談会報告書では、理想的な中間書庫制度の実現のために、「必要に応じ、現行の国立公文書館法の改正をはじめ、総合的な文書管理の仕組みを法的に位置付けること(文書管理法(仮称)の制定)を含め新たな制度設計も検討する必要がある」とも指摘している(同報告書6頁)。
 時の政権の勢力状況を見すえつつ、これら残された課題を、着実に実現していくことが求められているといえよう。



非公開図書のイメージ図を並記した
第1審最終準備書面の一部・34頁16行関係
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※1 三宅弘「情報公開立法と知る権利(1)〜(3)−営業秘密・プライバシー等との衡量および非公開審理手続の可否」法律時報65巻12号(1993年)17頁、66巻1号(1994年)98頁、66巻3号(1994年)26頁。

※2 差戻後第1審である横浜地判平成元年5月23日判時1319号67頁とその控訴審である東京高判平成3年5月31日判時1388号22頁。

※3 政府法案の国会提出から情報公開法の制定までは、畠基晃『情報公開法の解説と国会論議』(1999年)11頁、三宅弘『情報公開法の手引き』(1999年)15頁。世界の状況については、John M. Ackerman & Irma E.Sandoval-Ballesteros, The Global Explosion of Freedom of Information Laws, 58-1 Administrative Law Review, 85(2006). 同論文では、情報自由法の制定順に1766年スウェーデン、1888年コロンビア、1951年フィンランド、1966年アメリカ合衆国、1970年デンマーク、ノルウェー、1978年フランス、1982年オーストラリア、ニュージーランド、1983年カナダ、1987年オーストリア、フィリピン、1990年イタリア、1991年オランダ、1992年ハンガリー、ウクライナ、スペイン、1993年ポルトガル、1994年ベリーズ、ベルギー、1996年アイスランド、リトアニア、韓国、1997年タイ、アイルランド、1998年イスラエル、ラトビア、1999年チェコ、アルバニア、グルジア、ギリシャ、日本、リヒテンシュタイン、トリニダード・トバコ、2000年南アフリカ、イギリス、ボスニアヘルツェゴビナ、ブルガリア、リトアニア、モルドバ、スロバキア、エストニア、2001年ポーランド、ルーマニア、2002年パナマ、パキスタン、メキシコ、ジャマイカ、ペルー、タジキスタン、ウズベクスタン、ジンバブエ、アンゴラ、2003年クロアチア、インド、コソボ、アルメニア、スロベニア、トルコ、2004年ドミニカ、セルビア、アゼルバイジャンが紹介され、2005年末までに67カ国となっている。フィリピンなどについて、情報公開法の制定と解するには疑問も残るが、3分の2以上の法制定国が1999年以降の制定であることから、冷戦終結後のグローバル化に対応した制定状況であることは認められよう。

※4 検討会報告は、http://www.soumu.go.jp/gyoukan/kanri/jyohokokai/ketoukaiのサイト上に公表されている。その後の改善措置も収録したものとして、行政管理研究センター(IAM)編『情報公開制度改善のポイント−総務省・情報公開法制度運営検討会報告』(2006年)。

※5 2002年度独立行政法人国立公文書館業務実績報告書によれば、2001年度の各府省等から国立公文書館への移管数は14機関からの674冊にとどまった。2002年度は、所要の措置を講じて、15機関からの7759冊に回復した(報告書23頁)。
懇談会報告書では、半現用文書として、業務参考や証拠等として利用される可能性はあるが、日常の業務には直接利用されることは少ない文書と定義している(1頁)。なお、歴史的・文化的・学術的価値のある非現用文書の移管に論及した行政法の教科書として、宇賀克也『行政法概説沚s政法総論〔第2版〕』(2006年)がある。懇談会報告書については、国立公文書館・アーカイブズ25号(2006年)。

※6 懇談会報告書では、半現用文書として、業務参考や証拠等として利用される可能性はあるが、日常の業務には直接利用されることは少ない文書と定義している(1頁)。なお、歴史的・文化的・学術的価値のある非現用文書の移管に論及した行政法の教科書として、宇賀克也『行政法概説沚s政法総論〔第2版〕』(2006年)がある。懇談会報告書については、国立公文書館・アーカイブズ25号(2006年)。

※7 三宅前掲注1論文法時66巻1号103頁。

※8 東京地判平成15年5月16日判例マスター。東京高判平成15年9月11日判例集未登載。後者の東京高判は、上記審査会答申平成14年453号等について、同判決とは事案を異にする旨判示するが、中学校の作成した調査書の開示請求について、県教育委員会がした一部非公開決定に対し、開示請求者がした異議申立てにおいては、異議申立人本人及び近親者、出身中学校の当局者、当該異議申立ての処理に当たる県教委及び審議会の担当者並びにこれに準じる者が有していた特別の情報については、個人識別に結びつく「他の情報」には含まないと判示している。

※9 第153回国会衆議院会議録第7号、同法務委員会会議録第4号、同参議院法務委員会会議録第6号など。

※10 IAM編前掲4書527頁。また、平成11年4月27日閣議決定においても、「懇談会等行政運営上の会合については、審議会等の公開に関する措置に準ずるとされている」し、「議事録等における発言者の氏名については、特段の理由がない限り、当該発言者が公務員であるか否かを問わず公開するものである」とされていた(同書531頁)。

※11 藤原静雄「交際費支出関係情報の公開の是非と部分公開のあり方」季報情報公開1号(2001年)33頁。この他、右崎正博「総論 最高裁と情報公開判例」法律時報75巻5号(2003年)46頁の「六『情報』の概念と部分公開の法理」とその注(17)ないし(20)に簡潔に整理されている。また、情報公開法の制定当初の解説として、角替晃「情報公開法6条〜8条」ジュリスト1999年6月1日号55頁。これを引用するものとして松井茂記『情報公開法[第2版]』(2003年)127頁。宇賀克也『新・情報公開法の逐条解説〔第3版〕』(2006年)82頁も創設的規定とは明示していない。三宅弘「交際費情報公開判決と審査会の役割−最三小判平成13年3月27日批判」自由と正義2002年10月号92頁は、最高裁が情報公開法の立法経過を誤解したことを分析した。民事訴訟法から分析すれば、訴訟手続の早期の段階で、裁判所が釈明権を行使して、法的観点の内容を当事者に対して指摘させたうえで、独立一体説の採否が決せられるべきであった。法的観点指摘義務については、伊藤眞『民事訴訟法第3版補訂版」(2005年)270頁、高橋宏志『重点講義民事訴訟法上』(2005年)399頁。

※12 右崎正博「国家機密の保護と情報の自由化」法律時報52巻4号(1980年)35頁、38頁。

※13 三宅前掲注11論文94頁。

※14 情報公開法の制度運営に関する検討会2004年6月14日第3回・大阪府のヒアリング。松井前掲注11書190頁においても、「条例制定当時一般に、特定個人を識別させる部分を除いて個人に関する情報であっても公開すべきことは当然と考えられていた」と述べられているが、この認識は、右崎前掲注12論文で紹介されている情報自由法1974年改正の部分公開義務規定を日本の情報公開条例に導入した際の、当時の一般の認識だったのである。

※15 三宅前掲注11論文96頁。三宅前掲注3書75頁。IAM編前掲書注4書184頁。

※16 藤原前掲注11論文41頁。なお、IAM編前掲注4書の第1部、二問題点及び改善措置においても、藤原教授は、「審査会答申は、一貫して、これは情報公開法の立案の趣旨と異なるとして、最高裁のような考え方を採っていない」と、検討会報告を要約している(同書8頁)。

※17 第142回国会衆議院内閣委員会議録10号13頁塩野宏参考人発言。

※18 上記最判平成13年12月18日の判例評釈については、小林直樹「情報公開法による自己情報開示請求−法律扶助協会指導等調査報告書開示請求訴訟」獨協法学70号(2006年)46頁、38頁注10)参照。小林論文は、この最判の射程について確認したうえで、法律扶助協会指導等調査報告書について情報公開法に基づく自己情報の開示を認めるべきではないかと論じているが、個人識別型の不開示情報の規定が究極にはプライバシーの保護のためにあることを積極的に評価すると、同様の帰結に至るものと思われる。

※19 法務省民事局参事官によれば、「侵害されたものが厳密な意味では権利とはいえないようなものであっても、それが法律上保護される利益にあたれば、不法行為が成立し、行為者が損害賠償の責任を負うことは、判例(大審院大正14年11月28日・民集4巻670頁等)・通説として確立した解釈であることから、この点を条文に明示している」と解説されている(吉田徹『改正民法ハンドブック』(2005年)49頁。三宅前掲注1論文法時66巻1号99頁では、神奈川県の機関の公文書の公開に関する条例5条1項2号における「不利益」の概念が、民法709条の「権利の侵害」についての、いわゆる違法性論に引きづられ、無原則な利益衡量を強いられる危険を内包していると考えざるをえないことを指摘した。しかし、今般、民法の現代法化に伴い、「権利」と「法律上保護される利益」とに分けて規定されたことで、「権利」は基本的人権の侵害をも含むことにより、無原則な利益衡量とはならない歯止めとして機能することになるのではなかろうか。この他、浦川道太郎外・座談会「不法行為法の新時代を語る」78巻8号1頁、山本敬三「不法行為法の再検討と新たな展望」法学論叢154巻4=5=6号292頁、326−327、341−348頁、池田真朗編『新しい民法』(2005年)100頁[水野謙執筆部分]。

※20 三宅弘「情報公開法における法人・個人情報の取扱い」企業法学6号(1997年)36、40頁。

※21 三宅前掲注20論文41頁

※22 http://www.dpj.or.jp.news

※23 検討会第2回において、朝日新聞2001年1月13日によれば、仙台地方裁判所における実例が報告された。裁判所が原本との照合作業をし、要約書の21ヵ所の加筆訂正を市に要求したことが報道されたと紹介されている。この報道は、IAM編前掲注4書345頁で再録されている。この他、和解手続において、裁判所が非公開文書の原本と照合しつつ、その一部の黒塗りをできる限り少なくするように進めた事例としては、三宅弘『情報公開ガイドブック』(1995年)163頁で紹介した、精神病院統計情報非公開決定処分取消訴訟(三宅「情報非公開決定処分取消訴訟における『和解』判タ705号33頁)と小田急線連続立体交差事業調査報告書非公開決定取消訴訟(志賀剛「小田急訴訟・情報公開の意義」判タ842号37頁)がある。もっとも、「審査会答申においては、不開示情報の内容を示すような答申は書けない」と指摘されているとおり(藤原静雄教授・IAM編前掲注4書7頁)、記録に残しにくい手続であるため、判決に至る過程では、実施されていない。それゆえ、ヴォーン・インデックスを前提とするインカメラ審理であることが求められるのである。

※24 秋田仁志「自治体の情報公開制度の現状から学ぶもの」自由と正義46巻5号(1995年)39、41頁によれば、前掲最判平成6年2月8日に関して、最高裁を含む各裁判所は、右証言内容(大阪府側証人の証言)をそのまま信用してしまい、文書の記載内容について「開催目的の欄に出席者の氏名が記載される場合がある」と認定することとなった。しかし、公開された本件各文書には懇談会の出席者、相手方の氏名が記載されたものは現実には1通も存在しなかった」ことが報告されている。

※25 検討会第2回(2004年5月6日)、情報公開市民センター代表高橋利明弁護士。同センター理事・全国市民運動オンブズマン連絡会議事務局長新海聡弁護士もインカメラの必要性を強調した。同日のヒアリングで日本弁護士連合会も、具体的な条文案を示して、インカメラ審理の必要性を強調した。

※26 検討会第11回(2005年2月22日)が、相当に議論を深めている。

※27 佐藤幸治『現代国家と司法権』437頁。その後の学説の整理として、松井前掲注11書366頁注28)。

※28 三宅前掲注1論文法時66巻3号27頁、三宅前掲注23書178頁。東京地裁平成16年12月21日決定(訟務月報51巻10号2578頁)は、当該訴訟の原告代理人らによる、検証をインカメラ審理によって行うことができる旨の主張を斥けたが、調書における検証の結果の記載方法を工夫すれば、原告及び原告代理人が立会権を放棄することとあわせ、情報公開制度の趣旨に反しないインカメラ審理は可能であると考えられる。

※29 松井茂記「裁判の公開と『秘密』の保護(三、完)」民商法106巻6号18頁。同『裁判を受ける権利』(1993年)287頁。

※30 小早川光郎編『情報公開法−その理念と構造』(1999年)19頁(第1章長谷部恭男担当)

※31 司法制度改革推進本部知的財産訴訟検討会第12回配布資料長谷部恭男「裁判の公開原則と『公序』概念に関するメモ」。長谷部『憲法〔第3版〕』(2004年)308頁においても、人事訴訟法22条の憲法82条についての合憲性を根拠付けている。この他、笹田英司「イン・カメラ手続の憲法的基礎」川上宏二郎先生古希記念集刊行委員会編『情報社会の公法学』(2002年)479頁は、民事訴訟法へのイン・カメラ手続の導入の憲法的な基礎付けを検討し、憲法上可能であるとしても、実定法レベルで明記されることが必要であり、その際、「ボーン・インデックスがイン・カメラ手続に組み合わされる必要がある」と指摘している(516頁)。また、山下義昭「行政上の秘密文書とインカメラ審理」同書519頁は、ドイツ連邦憲法裁判所決定と改正法案の検討・分析を行い、これを手掛かりとして、日本において、「情報公開訴訟でもインカメラ審理を許容できる」、「裁判所が原告の手続保障の制限に十分配慮することを条件に、インカメラ審理を許容してよい」と結論付けている(540頁)。

※32 経済産業省知的財産政策室編『逐条解説不正競争防止法(平成16・17年改正版)』(2005年)123頁。

※33 不正競争防止法7条は、民事訴訟法223条4項と同様、文書提出命令のためのインカメラ審理の合憲性の一環として理解される。経産省編前掲注32書111頁参照。

※34 田辺誠「民事訴訟における企業秘密の保護(下)」判タ777号21頁、伊藤眞「営業秘密の保護と審理の公開原則(下)」ジュリスト1031号77頁。

※35 三宅前掲注3書14頁。

※36 アメリカ情報自由法の制定と1974年改正について、右崎前掲注12論文38頁。宇賀克也『情報公開法−アメリカの制度と運用』(2004年)3頁。松井前掲注11書485頁。

※37 前掲注24秋田論文41頁。

※38 松井前掲注11書368頁。

※39 訴訟に至る経緯については金城睦・藤井幹雄「自衛隊施設と情報公開」法時62巻1号67頁。さらに、同事件についての国の原告適格性を論じたものとして、棟居快行「判批」判評376号20頁、恒川隆生「機関委任事務情報の公開をめぐる抗告訴訟と国の地位」法時64巻12号21頁。

※40 総務庁行政管理局監『情報公開 制度化への課題−情報公開問題研究会中間報告』(1990年)278頁。

※41 この最判が引用する最判平成4年9月22日、いわゆるもんじゅ行政訴訟上告審判決は、「1 設置許可申請に係る原子炉の周辺に居住し、原子炉事故等がもたらす災害により生命、身体等に直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の住民は、原子炉設置許可処分の無効確認を認めるにつき、行政事件訴訟法36条にいう『法律上の利益を有する者』に該当する。2 設置許可申請に係る電気出力28万キロワットの原子炉(高速増殖炉)から約29キロメートルないし約58キロメートルの範囲内の地域に居住している住民は、右原子炉の設置許可処分の無効確認を求めるにつき、行政事件訴訟法36条にいう『法律上の利益を有するもの』に該当する。」を判決要旨として摘示し、行政事件訴訟法36条の規定する無効等確認の訴えの原告適格は、行政事件訴訟法9条の取消訴訟の原告適格の場合と同義と解する旨判示している。処分取消訴訟(行訴法3条2項)を含む抗告訴訟(同条)について、その訴訟物は、「行政庁の第一次的判断を媒介として生じた違法状態の排除」であり、これによって、基本的人権その他一般に権利利益を確保し保障することを目的とするものであるということができる」、「単純に行政庁の第一次的判断を求める給付訴訟…のごときは、少なくとも抗告訴訟の範疇には属さないといわなくてはならぬ」との見解がある(田中二郎『行政法上巻』(1974年)294頁)。この見解からは、那覇地判の第(1)点の判旨や福岡高判の判旨が導かれやすい。他方、現行法上の抗告訴訟を、「法律上は、それは、公権力の行使に関する不服の訴訟であって(3条1項)、その不服は公権力がなされたことに対して存在することは当然であるが、必ずしもそれに限られるものではない」(塩野宏『行政法第三版』(2004年)66頁)、「抗告訴訟は、違法な公権力の行使に対して私人の権利・利益の救済を目的とするが、同時に行政権を種々の行為規範に服せしめる手段でもある」(同250頁)という見解によれば、最二小判の判旨が導かれやすい。もっとも、塩野教授は、『行政法第四版』では、「改正法は、この主義(取消訴訟中心主義)からの脱却を目指したものである」(同書(2005年)77頁)とし、「行政事件訴訟法の特色」についての解説を変更し、上記第三版66頁の記述を削除しているが、この種の訴訟において国に原告適格をより一層認めやすくなったと解すべきであろうか。

※42 現行民事訴訟法によれば弁論準備手続(168条)による。

※43 その経過については、岩村智文「防衛情報公開訴訟の課題」法時64巻12号28頁。

※44 松井前掲注10書367頁注28)では、「日弁連は、公開の法廷で裁判官が当事者の立会いなしで情報を吟味できる制度を提案しており、この提案を支持する声もある」とするが、「秘密として保護すべき必要性の高い国の安全や外交に関する秘密の場合など、公開の法廷で吟味することはリスクが大きいし、そこまで認めるなら裁判官が裁判官室で情報を吟味することを認めても変わらないのではなかろうか」と指摘する。筆者も、憲法82条の裁判公開原則を強調すると、不開示情報自体を公開の法廷で審理すべきということになろうが、第4の3で述べたとおり、「裁判の公開によりかえって適正な裁判を行うことができない場合にまで、憲法が裁判の公開を求めていると解するのは困難である」という理解が一般化すれば、あえて公開法廷に限り不開示情報の審理ができるとするのではなく、インカメラ審理のために弁論準備手続や準備的口頭弁論手続が活用されてよいと考える。

※45 名古屋市公文書公開審査会平成4年5月7日答申

※46 間部俊明「米軍基地と情報公開」法時64巻12号35頁、沢田政司「米軍倉庫文書の公開請求に問答無用の非公開処分」自由と正義42巻5号51頁。

※47 前掲注22の民主党改正法案では、5条3号及び4号中、「おそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある」について、より客観的な事後的判断を可能とするために、「おそれがある」に改めることを提案している。

※48 三宅前掲注20論文41頁





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